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スリー・クォーターの失踪(3)
日期:2024-02-20 14:54  点击:274

 シリル・オーヴァートンは興奮して言った。

「鏡に写してみたら」

「それには及ばないですよ。この吸取紙は薄いから、裏返してみればわかるはずだ。ほ

ら」ホームズはそう言って吸取紙を裏返した。

「これが、ゴドフリー・スターントンがいなくなる数時間前に打った電報のおしまいの部

分だよ。おそらく、六語はこの前にあるね。しかしここに読みとれる Stand by us for God's

sake!(ドオカ、私タチヲ オ守リ下サイ)……という文章をみると、ゴドフリー君は恐ろし

い危険が迫っているのを知って、誰かに助けを求めているのがわかる、いいかね。《私タ

チ》というのは注意する必要があるよ! 誰かほかの人もいるらしい。顔色が悪くて、鬚

を生やして、いらいらしていたというあの男じゃないかな? でもゴドフリー・スターン

トンと鬚の男とはどんな関係があるんだろう? また迫ってきた危険を訴えている相手の

第三の人間て誰なんだろうな? 調査もここまで狭くなってきたわけだ」

「電報の宛先を探せばいいんだね」私は言った。

「そうだよ、ワトスン君。君は一生懸命考えたんだろうが、僕はとっくにそう思ってい

た。言っておくけどね、たとえ君が郵便局に行って、人の打った電報の控えを見せろと

言ったって、めったに見せやしないよ。こうしたことは万事お役所方式だからね。でも

ちょっと気をきかして術策を使えば目的は達せられるさ。ところでオーヴァートン君、あ

なたのいるうちに机の上の書類を調べておきたいと思うのですがね」

 机の上にはたくさんの手紙やら勘定書やらノートがあったが、ホームズはそれらを食い

入るような目つきで手ばやく調べていった。

「何も変わったものはないようだね。ところで君の友だちは身体はとても丈夫で……別に

悪いところはないんでしょう?」

「しごく頑健 がんけん な奴です」

「彼が病気したなんてことありましたか」

「いいえ、ただの一度だって。膝を蹴られて寝こんだこと、いちど膝蓋骨 しつがいこつ を脱臼 だっきゅう

したことはありましたが、それだってたいしたことじゃありませんでしたよ」

「でも君の思うほど、彼は丈夫じゃないのかもしれませんよ。僕は何か人に隠している患 わ

ずら いでもあるんじゃないかという気がするんだが、よろしかったら、これからの捜査に役

立つかもしれませんから、二、三この書類をお預かりしたいのです」

「ちょっと待った!」怒りを含んだ声がしたので、振り向くと、おかしな小さな老人が戸

口のところで顔をピクピク痙攣 けいれん させていた。彼は色のあせた黒い服を着て、ひどくふち

の広いシルクハットをかぶり、だらりとした白いネクタイをつけていた……そのすべて

が、ひどく田舎じみた牧師か、さもなくば葬儀屋の雇いの参列人を想像させた。みなりは

みすぼらしく、おかしくもあったが、声は鋭く、りんとしており、態度はどっしりしたと

ころがあって注意をひいた。

「あなたはいったいどなたですかな、どういう権利があって人の書類に手をつけなさ

る?」老人は言った。

「私は私立探偵です。ある青年が失踪しましたので調査にあたっているのですが」

「ほう、あんたがね? で、誰に頼まれなすった?」

「このスターントン氏の友人の方が、警視庁に推薦されて私に依頼してこられたのです」

「それじゃ、あんたはどなたじゃな?」

「私はシリル・オーヴァートンと言います」

「すると電報をよこしたのはあんただね。わしはマウント・ジェイムズじゃ。とるものも

とりあえずベイズヴォーターのバスでやって来たが、するとあんたが探偵さんをご依頼な

さったわけじゃね?」

「ええ、そうですよ」

「支払いのほうは用意がおありかな?」

「それはゴドフリーを見つけ出しさえすれば、彼が払うと思いますが」

「して、彼が見つからなんだら、ええ? どうなさる!」

「その場合は家族が……」

「そんなバカな!」老人は叫んだ。

「わしは、一ペニーでもあてにしてくれては困る。……びた一文でも払いませんぞ! 探

偵さん、よろしゅうございますかな! わしはゴドフリーのただひとりの親族じゃが、わ

しはいっさい責任は持ちません。あの子がいくらかでも遺産を受けつげるとしたら、それ

はわしが無駄な金を使わなんだからじゃ。いまさら無駄使いしようとは思いませんて。あ

んたが書類をお持ちになるのはご自由かもしらんが、万一その中に何か値打ちのあるもの

があったら、ちゃんと責任をもって頂きたい」

「結構です」シャーロック・ホームズは言った。「ところであなたは、甥 おい ごさんの失踪

について何か思いあたることはございませんでしょうか」

「いんや、何もありません。奴も自分ひとりの世話ぐらいやける年頃じゃ。どこぞに迷い

こんだとしたって、金をかけて探しまわるなんてことは、わしは絶対にご免じゃな」

「なるほどよくわかりました」ホームズはいたずらっぽそうに目を輝かせながら言った。

「でも私のほうの意見もおわかり頂きたい。ゴドフリー・スターントン君はお金持ではな

いようです。もし彼が誘拐されたとするなら、おそらく彼の財産目当てのことではありま

すまい。しかしマウント・ジェイムズ卿、あなたの財産のことは広く世間に知れている。

とすれば、悪漢どもが甥ごさんの口から、あなたの邸や習慣や財宝について情報を得ると

いうことは充分考えられるのではありますまいか」

 不愉快そうな老人の顔はさっと襟元 えりもと のように白くなった。

「うーん、何という考えだ! そんな悪智恵まで考え及ばなんだ! 何という人でなしの

悪漢がいるもんだ! でもゴドフリーは良い奴じゃ……信頼するにたる奴じゃから、この

年老いた伯父をおとし入れるようなことはないと思うが。さっそく今夜のうち金銀製の食

器類を銀行に運ばねばならん。ところで探偵さん、どうか骨惜しみせずに、ゴドフリーを

草の根わけても無事な姿で探し出して下さらんか。金のことは五ポンド、いや十ポンドく

らいのことなら、わしに言って下さい」

 あいそがよくなりはしたものの、もともとこの守銭奴の貴族は甥の私生活は何も知らな

かったので、役立つような情報は何も提供できなかった。こうなると唯一の手がかりは、

あの電報のきれはしの文章だ。この電報の写しでホームズは鎖のふたつ目の環 わ を探し出さ

ねばならなかった。われわれはマウント・ジェイムズ卿とは握手して別れ、オーヴァート

ンはこのふりかかった災難についてチームのメンバーたちに相談しに出かけていった。電

報局はホテルと目と鼻のところにあり、われわれはその前に立ち止まった。 
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06/26 13:58