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第二のしみ(7)_ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

 彼は床から絨毯をめくると、四つん這 ば いになって、そこに敷きつめてある四角な寄木の

ひとつひとつを爪で引っ掻いてみた。その中で、隅のほうをひくと横にずれるのがひとつ

あった。

 それは箱の蓋 ふた のように蝶番 ちょうつがい がしてあって、その下に小さな暗い凹みがあった。

ホームズは勇躍して手を突っ込んだが、結果は怒気と失望の色を苦々しく見せた。中は空 か

ら だったのだ。

「ワトスン君、早く早く。もとに戻して置かなくちゃ!」

 木の蓋をもと通りにして、絨毯を真っ直ぐに直し終えたところへ、レストレイドの声が

廊下から聞こえてきた。そのときはホームズは、マントルピースに元気なくよりかかっ

て、諦めたような辛抱強さで、抑え切れないあくびをかくそうと努めたふうをしているの

だった。

「お待たせしてすみませんでした、ホームズさん。あなたもこんなうるさい事件にうんざ

りしたことでしょう。奴さん、すっかり白状しましたよ。マクファースン、こっちに来た

まえ。この方たちに、君の赦 ゆる すことのできない行為をお話しするんだ」

 大柄の巡査は、悔悟 かいご の色を浮かべ、赤くなって部屋の中へにじり寄った。

「まったく悪意はなかったんでして。昨晩、若い女の人が戸口の所へやって来まして……

その人は家を間違えたんです。それでちょっと一緒に話を交わしたんです。一日じゅうこ

こにいてさびしかったですからね」

「それで何が起こったのだ」

「女は犯罪の行なわれた場所を見たいと言いましてね……自分でその記事を読んだと言っ

てました。彼女は賎 いや しからぬ、言葉づかいも洗練されており、のぞかせるくらいなら何

も悪いことはしないだろうと思ったんです。でも、絨毯のあの血痕を見たら、卒倒してし

まって、まるで死んだみたいになりました。私は奥のほうへ走って行って、水を持って参

りましたが、正気づかせることはできません。それで私は、角をまわって、《アイヴィ・

プラント》まで行き、そこでブランデーを少しもらって来ました。ところが戻って来まし

たら、もう彼女は恢復 かいふく したらしく、そこに居ないんです。たぶんそんな自分のことが恥

かしくなって、私に顔見せできなかったんでしょう」

「あの絨毯を動かしたことはどうなんだ」

「たしか、帰って来ましたとき、少し皺 しわ になっていました。彼女がそこへ倒れたのです

し、床は磨かれてありまして、ちゃんととめるような物は何もなかったので、そうなった

のです。私が後で真直ぐにいたしておいたのです」

「マクファースン君、これで俺をだませないってことがわかったろう」レストレイドは威

厳をこめて言った。「務めを怠っても、わかりはしないだろうと考えてたんだろうが、あ

の絨毯をひと目見ただけで、部屋に誰かが入ったってことがわかったんだ。何も取られて

ないのがせめてもの幸運だが、さもなければ、今頃はただじゃすまないんだぞ。ホームズ

さん、つまらぬことでお出でを願ってすみませんでした、でも第二の《しみ》が第一のし

みと符合しない点が面白いのじゃないかと思ったものですから」

「いや、本当に面白かったですよ。巡査君、その女性はいちど来たきりですか」

「ええ、たった一度です」

「どなたですか」

「名前は知りません。タイプライターの仕事の広告に応募して来たのですが、家の番号を

間違えたのです。たいへん快活で、上品な若い婦人でした」

「背の高い人で美人ですか」

「そうです。発育のいい若い婦人でした。美しいと申してもよく、いや人によっては非常

な美人だと言うでしょう。《あら、お巡りさん、私にちょっとのぞかせて》と言いまし

たっけ。それが、ご機嫌とりの、調子のいいものだったので、私も戸口から、頭をちょっ

と入れるくらいは悪くないだろうと思ってしまったのが……」

「女はどんな服装でしたか」

「慎 つつま しやかな……足まであるような長いマントを着ていました」

「何時頃でしたか」

「ちょうど暮れかかった頃でして。私がブランデーを持って戻って来ましたときは家々

に、燈火がともっておりました」

「結構でした。ワトスン君、来たまえ。他の所でまだ重要な仕事があるようだからね」

 その家を出たとき、レストレイドは表側の部屋に残っていたが、悔悟の気持を持った巡

査は、ドアを開いて、われわれを見送った。ホームズは石段の所で振りかえり、手の中に

持っていたものを見せた。巡査は熱心に見つめていたが、

「おや、これは……」と驚きあきれて叫んだ。ホームズは唇に指を当てて、片手を胸ポ

ケットに入れた。そして街路に出ると、爆笑した。「うまく行った!」とホームズは叫ん

で、「来たまえ、ワトスン君、最後の場の幕があくんだ。戦争にはならないし、トリロー

ニー・ホープ閣下の輝かしい政治生活は何らの挫折も受けないし、不謹慎な君主はその不

謹慎の行為のために罰を受けることもなくなり、総理大臣は、ヨーロッパの紛糾を処理す

る必要もなくなり、ほんのちょっと、われわれの機智を働かせれば、えらく悪性の事件と

もなったかも知れぬ問題を、誰もたいして気にかけずにすますことになるんだ、と聞け

ば、君も心が安まろうというものだよ」

 私はこの尋常ならざる男に改めて驚嘆した。

「解決したと言うのだね」

「まだまだ、ワトスン君。前と同じくわからない点はいくつかあるんだよ。でも多くのこ

とがわかっているんだから、残っている部分がわからなければ、こっちの責任だよ。これ

から、ホワイト・ホール・テラスに真っ直ぐに行って、この問題を片づけてしまおう」

 ヨーロッパ大臣の官邸に着くと、シャーロック・ホームズが、面会を求めたのは、ヒル

ダ夫人であった。私たちは居間に通された。

「ホームズさん!」と夫人は憤慨して、赤くなった。「あなたは卑劣な、不正直な方です

のね。私がお訪ねしたことは秘密にして下さるようお願いしたではありませんか。こうし

て来られるんでしたら、主人の事件に私が出しゃばったって、すぐ思われてしまいます

わ。あなたがいらっしゃると、私困ってしまうんです。何か仕事のことで、私とあなたの

間に関係があったのではないかっていうふうに取られますもの」

「残念ですが、ほかに取るべき道がなかったのです。私はきわめて重要な文書を取り戻す

よう委任されております。それで、奥さん、どうぞ私の手に、それを渡して頂かねばなり

ません」


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