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15 三体 コペルニクス、宇宙ラグビー、三太陽の日_三体_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336
 15 三体 コペルニクス、宇宙ラグビー、三太陽の日
葉文潔の家を出てから、汪淼の心は波立っていた。この二日間の出来事と、紅岸基地の物語──一見、関係のなさそうな両者がしっかりと結びつき、世界が一夜にして異常で見知らぬものに変わってしまった。
 帰宅してから、このもやもやをなんとかしようと、汪淼はパソコンを立ち上げた。スーツを装着し、『三体』に入る。これで三度目だ。
 気分を変えようという目論見は図に当たった。ログイン画面が表示されるころには、汪淼は、説明のつかない興奮に満たされた別人になったような気分だった。過去二回のプレイとは違って、今度の汪淼には目的があった。すなわち、『三体』世界の秘密を暴くこと。
 そこで、この新たな使命にふさわしい新しいアカウントをつくることにした。ログイン名は、コペルニクス。
 ログインすると、汪淼はまた広大な平原に佇み、『三体』世界の不気味な夜明けと向き合っていた。巨大なピラミッドが東のほうに見えたが、汪淼はすぐに、それが紂王と墨子の時代のピラミッドではないと気づいた。今回のピラミッドにはゴシック式の塔頂があり、夜明けの空に向かってまっすぐそそり立っている。そのようすは、きのうの早朝、王府井で見たローマ式教会を思い起こさせた。だが、あの教会がもしこのピラミッドのそばにあったら、それはただの小屋に見えただろう。
 遠くのほうには、乾燥倉庫とおぼしき建物がたくさんあるが、その形状もすべて、高く鋭い尖頂を戴いた中世ヨーロッパ風に変わり、大地から無数のトゲが生えているかのように見えた。
 ピラミッドの側面にある入口の内側から、ちらつく火明かりが洩れていた。入ってみると、トンネルの壁には、いぶされて真っ黒になっている古代ギリシャの神々の彫像が、たいまつを手にして一列に並んでいた。トンネルを歩きつづけ、その先の大広間に足を踏み入れると、そこはトンネルの中よりもさらに暗かった。大理石の長いテーブルに銀製の燭台がふたつ置かれて、蠟燭の炎が眠たげに輝いている。
 テーブルのまわりには数人が座っていた。薄暗がりのなか、ぼんやり浮かぶその顔は、ヨーロッパ人の容貌をしていることがかろうじて見てとれた。その目は、秀でたひたいの陰に隠れているが、汪淼は自分に視線が注がれているのを感じた。彼らのほとんどが、中世風のローブをまとっている。よく見ると、ひとりかふたりのローブは、もっとシンプルな、古代ギリシャのトーガ風だった。
 長テーブルの端には、背の高い痩せた人物が座っている。その頭に載っている金の冠は、大広間の中で、蠟燭以外に唯一輝いているものだった。薄闇に目を凝らすと、彼の服がほかの人間とは違っているのがわかった。赤い色をしている。
 汪淼はそれを見て、自分の考えに確信を持った。このゲームは、プレイヤーごとに、それぞれ違う世界を用意している。ヨーロッパ中世風のこの世界は、ソフトウェアが彼のに基づいて選んだものだろう。
「遅かったな。会議はもう、ずいぶん前にはじまっているぞ」金の冠をかぶる赤い服の人物が言った。「余はローマ教皇グレゴリウス一世だ」 汪淼は、ヨーロッパ中世史に関するそう多くない知識を総動員して、その名前から文明の発展度合いをなんとか推測しようとしたが、『三体』世界の時代考証のでたらめぶりを思い出し、そんな努力はするだけ無駄だと結論した。
「を変えたな。だが、われわれにはきみがわかる。前のふたつの文明では、東洋を旅していたな。ああ、わしはアリストテレスだ」古代ギリシャのトーガ姿の人物が言った。髪の毛は白く、カールしている。
「そのとおりです」汪淼がうなずく。「わたしはここでふたつの文明が滅亡するのを目のあたりにしました。一度めは厳しい寒さによって、二度めは激しい暑さによって。わたしは東洋の学者たちが太陽の運行法則を理解するために、おおいに努力しているところも見てきました」
「はっ」山羊のような鬚ひげを生やした、教皇よりもさらに痩せた人物が暗闇の中から声を出した。「東洋の学者と来たら、瞑想やら悟りやら、挙げ句の果ては夢やらを通じて、太陽の運行の秘密を発見しようとしてきた。笑止千万」「こちらはガリレオだ」とアリストテレスが山羊鬚の人物を紹介する。「実験と観測を通じて世界を理解すべきだと主張する、実務型の思想家だ。だが、その業績は注目に値する」
「墨子も実験と観測を行っていました」汪淼が言った。
 ガリレオがまた鼻を鳴らした。「墨子の思想はやはり東洋的だ。科学の衣装をまとった神秘家にすぎん。自分の観測結果をまともに検証したことすらなく、主観的な憶測に基づいて宇宙モデルを構築した。滑稽きわまりない あの立派な実験設備がもったいないことよ。だが、われわれは違う。大量の観測と実験結果を基礎として、そのうえで厳密な推論を通じて宇宙モデルを構築し、さらに実験と観測に戻ってモデルを検証する」「それは正しいやりかたです」汪淼がうなずく。「まさに、わたしの思考方法です」「ではそなたも、万年暦を持参したのか」教皇が皮肉まじりに言った。
「わたしは万年暦など持っておりません。観測データをもとに構築した宇宙モデルがあるだけです。ただし、最初にはっきりさせておきたいのですが、たとえこのモデルが正確だったとしても、それをもとに太陽の運行を細部まで正確に把握し、万年暦がつくれるとはかぎりません。しかしながらこれは、かならず通過しなければならない、最初の一歩です」
 ひとりだけの拍手の音が、暗く冷たい大広間に、二度三度、うつろにこだました。拍手の主はガリレオだった。「すばらしいね、コペルニクス、すばらしい。実験を重んじる科学的アプローチに合わせたきみの現実的な思考方法は、ほとんどの学者が持ち合わせていないものだ。この点だけでも、きみの仮説は傾聴に値する」 教皇が汪淼に向かってうなずいた。「つづけよ」 汪淼は長テーブルの反対の端まで歩いていくあいだに気持ちを落ち着かせた。「わたしの仮説はたいへんシンプルです。太陽の運行になんの法則もないように見えるのは、この世界に三つの太陽があるからです。たがいに摂動を起こさせる引力の影響のもとで、それらの運行は予測不能になります──いわゆる三体問題です。われわれの惑星がそのうちのひとつの太陽をめぐって安定的に運行している期間が、いわゆる恒紀です。もうひとつかふたつの太陽が一定距離内に近づいて、その引力によって、もともとの太陽からこの惑星を横どりした結果、惑星が三つの太陽の引力圏内を不安定にさまよっている期間──それが、乱紀です。そのあと、ある時間が経過したのち、われわれの惑星がふたたびあるひとつの太陽に捕らえられ、暫定的に安定した軌道をめぐるようになると、また恒紀がはじまります。宇宙的なスケールでくりひろげられるサッカーの試合のようなものです。プレイヤーは三つの太陽で、われわれの世界がボールです」
 暗い大広間にうつろな笑いが響いた。「火焙りにせよ」教皇が無表情に言う。入口に控える、錆びた重い甲冑姿のふたりの兵士が、二体のぽんこつロボットのように汪淼のほうへと近づいてくる。
「火焙りだな」ガリレオがため息をついて手を振った。「きみには期待していたが、神秘家か魔道師レベルだったな」
「こういう輩は、じつに傍はた迷惑だ」とアリストテレスもうなずく。
「話はまだ終わっていません」汪淼は自分を押さえつける鉄製の籠こ手てを振り払った。
「きみは三つの太陽を見たことがあるか あるいは、見たことがあるというだれかを知っているか」ガリレオが小首を傾げてたずねた。
「だれもが見ています」
「では、乱紀と恒紀のあいだに現れる太陽以外の、ほかのふたつの太陽はどこにある」「まず、説明が必要です。われわれがべつべつの日に目にする太陽は、同じひとつの太陽ではないかもしれません。三つのうちのどれかひとつにすぎないのです。ほかのふたつの太陽が遠くにあるとき、それらは飛星のように見えます」「きみは最低限の科学の訓練すら受けておらんようだな」ガリレオが首を振りながら言った。「太陽が遠くの点になるためには、その位置まで連続的に動いていかねばならん。途中の空間を飛び越えることなどできん。きみの仮説が正しいとすれば、第三の状態が観察されるはずだ。すなわち、太陽がふだんよりも小さく、飛星よりも大きい状態だ。なぜなら、太陽が遠ざかってゆくうち、しだいに飛星の大きさへと変わっていくはずだからだ。
だがわれわれは、そんな太陽など一度も見たことがない」「あなたは科学の訓練を受けていらっしゃるのですから、太陽の構造について一定の知識がおありのはずですが」
「それは、吾輩がもっとも誇りとする発見だ。すなわち、太陽は、密度は稀薄だが広大なガス層と、高密度で灼熱の内核とで構成されている」「そのとおりです。ただ、太陽のガス層とわれわれの惑星の大気とのあいだに、特殊な光学的相互作用があることは、まだ発見されていないようですね。これは、偏光もしくは、相互に弱め合う干渉作用に似た現象です。その結果、われわれが太陽を大気圏内から観察しているとき、太陽がある距離に達すると、ガス層がとつぜん透明になり、太陽の中心核しか見えなくなるのです。
 このとき、われわれが見ている太陽は、とつぜん中心核サイズまで小さくなる。これが飛星です。
 この現象が、歴史上のあらゆる文明の研究者たちを混乱させ、彼らが三つの太陽の存在に気づくことを阻んできました。なぜ三つの飛星の出現が長い厳寒期の到来の先触れとなるのか、これでおわかりでしょう。それは、このとき、三つの太陽すべてが遠くにあるからです」
 全員が考え込み、短い沈黙が流れたが、やがてアリストテレスが口を開いた。「きみは論理の基礎もできていないようだな。たしかに、ときおり三つの飛星が見えることはあり、それはつねに壊滅的な厳寒期をともなっている。しかし、きみの仮説にしたがえば、空に三つの正常な大きさの太陽が見られることもあるはずではないか。ところが、そんなことは一度も起きていない。これまでのあらゆる文明が残した記録にも、そんな現象が起こったという記述はない」
「待て」不思議なかたちの帽子をかぶった長い鬚の人物が、このときはじめて立ち上がった。「歴史上の記述はあるかもしれない。ある文明は、ふたつの太陽を同時に見た直後、両者の熱によって滅びたというが、その記録はたいへんあいまいだ。ああ、わしはダ?
ヴィンチだ」
「いまここで問題にしているのは三つの太陽だ。ふたつではない」ガリレオが叫んだ。
「こやつの理論では、三つの太陽はかならず出現する。三つの飛星のように」「三つの太陽は現れたことがあります」汪淼は静かに言った。「それを見たことがある人もいます。ただ、目撃者はその情報を伝えられないのです。彼らがその偉大なる光景を見られるのは、長くても数秒だけ。それ以上長くは生き延びられないからです。三太陽は、『三体』世界でもっとも怖ろしい災厄です。このとき、地面は一瞬にして熔鉱炉に変わり、その高熱で岩石まで溶かしてしまう。三太陽によって壊滅した世界は、ふたたび生命と文明が復活するまでに長い時間を要します。これも、歴史上の記録がない原因でしょう」
 沈黙のあと、全員が教皇を見つめた。
「火焙りだ」教皇が静かに言った。その顔に浮かんだ笑みは、汪淼には見覚えがあった。
紂王のそれだ。
 たちまち大広間じゅうが活気づいた。みんな、吉報に出くわしたかのようだった。ガリレオらは意気揚々と暗がりから火焙り用の十字架を運んでくると、そこにはりつけにされたままだった黒焦げの死体を外して放り投げ、十字架を垂直に立てた。ほかの者たちは興奮したようすで焚き木を集めはじめる。ダ?ヴィンチひとりが、この状況に身じろぎひとつせず、テーブルの前に座って考え込み、ときに筆記具を動かして、なにか計算している。
「ブルーノだ」アリストテレスは焦げた死体を指して言う。「かつて、ここで、きみと同じようにでたらめを言ったやつだ」
「弱火でやれ」教皇が力ない声で言った。
 ふたりの兵士が、耐火性の石綿ひもを使って汪淼を火焙り用の十字架に縛りつけた。汪淼はまだ動かせる指で教皇を指して言った。「おまえなんか、ただのプログラムだ。ほかの全員も、プログラムだろう。でなかったら大莫迦だ。再ログインして戻ってくるからな」
「きみは戻れんよ。『三体』世界から永遠に消える」ガリレオが不気味に笑いながら言う。
「じゃあ、おまえもきっとプログラムだ。まともな人間だったらだれでも、インターネットの基礎くらい理解している。ゲームシステムに可能なのは、せいぜいおれのアドレスを記録することぐらいだ。べつのパソコンからログインして新しいをつくるだけでいい。
戻ったら、名を名乗ってやる」
「システムはスーツを通じてきみの網膜の特徴を記憶している」ダ?ヴィンチは顔を上げて汪淼をじろっと見てから、また自分の計算に没頭しはじめた。
 汪淼はだしぬけに、名状しがたい恐怖にとらわれた。「やめてくれ 放せ おれは真実を語っているんだぞ」
「きみの語ることが真実なら、焼死はまぬがれるだろう。ゲームは、正しい道を歩む者に褒美を与えるからな」アリストテレスが邪悪な笑みを浮かべ、銀色に輝くジッポーのライターをとりだすと、空中で鮮やかに手を動かしてキャップを開け、フリント?ホイールをこすって火をつけた。
 それから、汪淼をとり囲む薪に点火しようとしたそのとき、まばゆい赤い光がトンネルを満たした。それにつづいて、熱と煙の波がどっと流れ込んでくる。そして、一頭の馬が赤い光の中から姿を現し、大広間にギャロップで駆け込んできた。馬体は炎に包まれてごうごうと燃えさかり、それが風に煽られて巨大な火球になっている。馬上の乗り手は、赤熱する重い甲冑をまとった中世の騎士だった。背後に白い煙をたなびかせている。
「世界がたったいま滅亡した 世界が滅んだ 脱水だ、脱水だ」騎士が狂ったように叫んだとき、馬がどうとばかりに床に倒れて、大きなかがり火となった。前に投げ出された騎士ははりつけ台のほうまで床を転がり、そこで動かなくなった。甲冑の隙間から白い煙がもくもく立ち昇り、中の遺体からじゅうじゅうと音を立てる脂が床に滴り落ちて燃え上がり、甲冑の左右に生える二枚の紅ぐ蓮れんの翼となった。
 大広間にいた人々は全員トンネルに逃げ込み、押し合いへし合いしながらピラミッドの外に出たとたん、赤く輝く光を浴びてたちまち蒸発してしまった。汪淼はなんとか十字架の縛いましめをほどこうともがきつづけた挙げ句、さほど堅牢でもないはりつけ柱もろとも床に倒れた。体をくねらせて柱の端まで這い進み、ようやくロープから抜け出した。なおも燃えつづける騎士と馬をよけながら、無人の大広間を走り、灼熱のトンネルを通って外に出た。
 大地はすでに、鍛冶屋のかまどに挿し込まれた鉄片のように赤く輝いていた。まばゆいマグマの川が無数の蛇のように暗赤色の地面を這い、地平線まで広がる火の網と化している。無数の細い火柱が空に向かってそそり立つ。乾燥倉庫が燃えているのだ。中の脱水体にも火が点いて、奇妙な青みがかった輝きを放っている。
 そう遠くないところに、同じ色をした十本ほどの小さな火柱が立っているのが見えた。
さっきピラミッドから逃げ出してきた人々──教皇、ガリレオ、アリストテレス、ダ?ヴィンチなどなど──だろう。彼らを包む青みがかった炎は半透明で、その顔や体が火の中でゆっくり変形してゆくのが見えた。彼らのまなざしは、ピラミッドから出てきたばかりの汪淼へと注がれている。全員が同じポーズをとり、ぼうぼうと燃える両腕を空にさしのべ、歌うようにそろって叫んだ。
「三太陽の日だ──」
 汪淼は顔を上げ、彼方を見渡した。すると空中に、三つの巨大な太陽が、見えない軸をめぐってゆっくり回転しているのが見えた。それは、巨大なファンが大地に向けて死の風を吹かせているかのようだった。空のほぼすべてを占領した三つの太陽は西に移動し、すぐにその半分が地平線の下へと沈んでいった。ファンはなおも回転しつづけ、ときおり光り輝く羽根の一部が地平線の上に出て、死にゆく世界に短い日の出と日の入りをもたらした。日没後、灼熱の大地は暗赤色に輝き、一瞬後に訪れた日の出がまたまばゆい平行光線ですべてを満たす。
 三つの太陽が完全に沈んだあとも、大地から立ち昇る蒸気でできた濃い雲がなおも地平線の向こうの光を乱反射させ、燃える空を地獄のような狂おしい美に染め上げた。
 その破滅の夕焼けもとうとう消えてしまったあとは、大地の地獄の火を映したかすかな赤い冷光に輝く雲だけが空に残り、そこに数行の巨大なテキストが出現した。
 文明は三太陽の日によって滅亡しました。この文明は中世レベルまで到達していました。
 長い時間のあと、生命と文明が再起動します。『三体』の世界で予測不能の進化がふたたびはじまるでしょう。
 しかし、この文明で、コペルニクスは宇宙の基本構造を示すことに成功しました。三体文明は、最初の飛躍を遂げたのです。ゲームはレベルに到達しました。
『三体』レベルへのログインをお待ちしています。
原注 三体問題
 質量が同じ、もしくはほぼ同程度の三つの物体が、たがいの引力を受けながらどのように運動するかという、古典物理学の代表的な問題。天体運動を研究する過程で自然とクローズアップされ、十六世紀以降、おおぜいの科学者たちがこの問題に注目してきた。ァ·ラー、ラグランジュ、およびもっと近年のコンピュータの助けを借りて研究してきた科学者は、それぞれ、三体問題のある特定のケースについて、特殊解を見出してきた。後年、フィンランドのカール??スンドマンが、収束する無限級数のかたちで三体問題の一般解が存在することを証明したが、この無限級数は収束がきわめて遅いため、実用上は役に立たない

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