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九 夢にも思わなかったこと(2)_失われた世界(失落的世界)_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336
 厚い緑のひだが崖の縁をおおっていることは前にも述べた。その中から何か黒いすべすべしたものが現われた。それがゆっくりと前に進んで崖からぶらさがったところを見ると、妙に平べったいスペード型の頭をした大きな蛇だった。一瞬朝日を浴びて、なめらかに曲りくねった体が頭上でゆらゆら揺れていたが、やがてゆっくり後もどりして姿を消した。
 サマリーはひどく興味をひかれたらしく、チャレンジャーに首をおさえられたまま抵抗もせずにそれを見守っていたが、やがて同僚の手をふり払って、いつもの威厳ある態度に戻った。
「チャレンジャー教授」彼は言った。「何か言いたいことが心に浮かんでも、人の顔を持ちあげないようにしてもらいたいものだな。ありきたりの大きなニシキヘビが現われたぐらいのことで、このような無礼が許されるわけでもあるまい」「しかし台地の上に生物がいることは事実だ」と、チャレンジャーは勝ちほこって言った。
「さて、この重要な結論が、どんな偏見にとらわれた鈍感な人間の目にもはっきり証明されたからには、テントをたたんで西のほうへ登り口を探しに出発するほうがよくはないかな」 崖下の地面はごつごつした岩場なので、歩みはのろく、骨が折れた。しかし、突然胸のおどるようなものに出くわした。それは古い野営地のあとで、牛肉のあき罐が数個、『ブランデー』というレッテルのびん、こわれた罐切り、その他前の旅行者が残したさまざまの品物が散らばっていた。しわくちゃの破れた新聞は『シカゴ?デモクラット』と読めたが、日付はちぎれていた。
「これはわしのじゃない」チャレンジャーが言った。「おおかたメイプル?ホワイトのものだろう」 ジョン卿は巨大なヘゴの木の日かげになった野営あとを、珍しそうに眺めていた。「ねえ、これを見たまえ。どうも道しるべのようだよ」 堅木の破片が西のほうに向けて木に打ちつけられていた。
「まちがいなく道しるべだ」とチャレンジャー、「それ以外には考えられん。この旅が危険なことを知ったわれわれの開拓者は、あとからくる者のために自分のとった進路をこれで示したのだ。先へ進めばもっと何か見つかるかもしれん」 たしかに教授の言葉通りになったが、それは思いもかけぬ恐ろしい光景だった。断崖の真下に、前に切り開いて進んだのと同じような高い竹やぶが茂っていた。それぞれの竹が二十フィートもあり、先端が鋭く丈夫なので、ちょうど槍やりをさかさに立てたような恰好だった。この竹やぶの外側をまわって通りすぎるとき、中のほうで何か白っぽいものが目についた。やぶの中に頭を突っこんでよく見ると、それは肉のおちたしゃれこうべだった。全身の骨格がそっくり横たわっていたが、頭蓋骨だけは胴体とはなれてかなり手前のほうにころがっているのだった。
 インディアンの山刀で竹やぶを切り開いて、この過去の悲劇のあとをくわしく調べてみた。衣服は切れはしだけしか残っていないが、脚に長靴が残っているところを見ると、死んだ人間は明らかにヨーロッパ人だった。ニューヨークのハドソン製の金時計と、万年筆のついた鎖が骨の間に落ちていた。蓋ふたに『A?E?SからJ?Cへ』と彫った銀のシガレット?ケースも見つかった。金属製品の酸化状態から、悲劇はさほど遠くない昔におこったものと判断された。
「いったいだれだろう?」ジョン卿が言った。「かわいそうに、体中の骨がばらばらに折れているようだ」「おまけに竹が折れた肋骨の間を通ってのびている」とサマリー、「竹は成長の早い植物だが、それにしても二十フィートものびる間死体がずっとここにあったとは考えられん」「この男の身許については」とチャレンジャー教授、「一点の疑いもない。ショートマンの邸できみたちと会うために川をさかのぼる途中、わしはメイプル?ホワイトのことをいろいろとたずねてみた。パラでは収穫がなかったが、幸い確実な手がかりが一つあった。
スケッチブックの中に、彼がロザリオで一人の坊さんと食事をしている絵があったからだ。その坊さんとは会って話すことができた。ひどく議論好きな男で、近代科学の腐蝕作用によって多少とも信仰がぐらついていたにちがいないところへ、わしが重ねて冒涜的なことを持ちだしたと言ってひどく腹を立てたが、ともかくもある確実な情報を与えてくれた。メイプル?ホワイトは四年前、つまりわしが死体を見た二年前にロザリオを通ったという。その時はジェームズ?コルヴァーというアメリカ人の連れがいたが、船に残っていたので坊さんには会わなかったそうだ。だからこれはジェームズ?コルヴァーの遺体にちがいないと思うのだよ」「それに彼がどんな死に方をしたかもはっきりしている」とジョン卿が言った。「崖の上から落ちたか投げおとされたかして串刺くしざしになったのだ。そうでなければ骨がバラバラに折れたり、こんなに高い竹が突き刺さったりするはずがない」 われわれはバラバラに折れた骸骨のまわりに立って、ジョン?ロクストン卿の言葉の正しさを噛かみしめながら沈黙していた。頭上の崖は竹やぶにおおいかぶさるように突きだしている。だがこの男は自分で足を踏みすべらしたのだろうか? 単なる事故だったのだろうか? それとも――この秘境はすでに不吉な恐ろしい可能性をはらみつつあるように思われた。
 われわれは無言のまま崖にそって前進した。それは以前何かで読んだ南極の巨大な氷原のように切れ目がなく平らだった。極地の氷原は水平線のはてからはてまで見わたすかぎりつづいており、探検船のマストほども高くそびえ立っているという。五マイルほど進む間岩の裂け目は一つとして見当たらなかった。やがて、ふたたびわれわれを新しい希望でみたすようなものに突然気がついた。ちょうど雨除けに都合のよさそうな岩のくぼみに、これも西のほうを向いた矢印がチョークでなぐりがきされていたのだ。
「これもメイプル?ホワイトが描いたものだ」チャレンジャー教授が言った。「おそらくたのもしい後続部隊がすぐあとからやってくるという予感がしたのだろう」「彼はチョークを持っていたんだね?」「ナップザックの中に色チョークの箱が入っていた。白チョークが短くすりへっていたのをおぼえている」「それが確かな証拠だ」サマリーが言った。「その人物が残した道しるべをたどって西へ進むのがよい」 なおも五マイルほど進むと、ふたたび岩の上に白い矢印が見つかった。そこではじめて、岩の表面に狭い裂け目が認められた。裂け目の中につぎの矢印があって、少し上向きになっていた。地面より上の場所を示しているらしい。裂け目の内側は、巨大な壁面がそびえ立つ荘厳な場所だった。狭い隙間から青空がちょっぴり見え、両側の緑のひだにさえぎられた薄明りが、わずかに底のほうまでさしこんでくるだけだった。何時間も食事をしていないうえに、ごつごつした岩場の不規則な行進でくたくたに疲れていたが、興奮のあまり休息も頭に浮かばなかった。とにかくインディアンたちにテントを張ることを命じておいて、われわれ四人に混血二人を加えた六人がこの狭い裂け目の奥に踏みこんだ。
 

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11/24 19:53