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九 夢にも思わなかったこと(5)_失われた世界(失落的世界)_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336
 わたしとしては髪の毛が逆立つような瞬間も何度かあったが、実際はそれほどの難事業でもなかった。中腹まではいたつて楽々と登れたが、それから上が一歩ごとにけわしくなり、特に最後の五十フィートは文字通り小さな岩の突起や割れ目にしがみついて登る始末だった。チャレンジャーが最初に頂上にたどりついて(こんなぶざまな体格をした人物がこれほどの機敏さを発揮するとは珍しいことである)、そこにはえているかなり大きな木の幹にロープをしばりつけてくれなかったら、わたしはいうまでもないがおそらくサマリーも頂上をきわめることはできなかったろう。このロープを頼りにごつごつした岩壁をよじのぼって、間もなく二十五フィート四方ほどの草のはえた狭い平坦地にたどりついた。そこが頂上だった。
 一息入れて最初に目についたのは、われわれが通ってきたこの地方の異様な眺めだった。まるでブラジル平原全体が眼下に横たわっているかのごとく、はてしない拡がりを見せて、その向こうははるかな地平線上に青いもやとなってかすんでいた。前景には岩やヘゴの木を点々とまき散らした長い斜面があり、その向こうの中間地帯には、鞍くら型の山ごしにわれわれが通り抜けてきた竹やぶの黄色と緑が見えるだけだった。それから先きは植物がしだいに数を増して、目のとどくかぎり、たっぷり二千マイルはありそうな大森林を形成していた。
 この壮大なパノラマに言葉もなく見とれている間に、チャレンジャー教授がわたしの肩にどっしりと片手をおいた。
「こっちだよ、きみ。もはや後退はないヴェスティジア?ヌラ?レストロルスム。輝かしい目標めざして前進あるのみだ」 ふりかえってみると、台地とわれわれの立っている場所の高さはまったく同じで、ところどころ高い木の混った緑の茂みは、近寄りがたいことを忘れさせるほどすぐ近くに見えた。大ざっぱな目測で空間の幅は四十フィートほどあるが、こうして見るかぎりでは四十マイルにも感じられた。わたしは片腕を木の幹にまきつけておいて、深淵に身をのりだしてみた。はるか下方にわれわれのほうを見あげる従者たちの姿が、黒い豆粒のように見えている。この岩壁も向かい側の台地の壁と同じで垂直に切り立っていた。
「これは不思議だ」と、サマリー教授のきいきい声が聞こえた。
 ふり向くと、わたしがつかまっている木を熱心に調べている。だがなめらかな樹皮も筋のある小さな葉も、わたしにはありふれたものとしか見えなかった。
「だってこれはただのブナの木ですよ!」
「その通り」サマリーは答えた。「こんな異境にもわれわれの同胞がいるとみえる」「単に同胞というだけではない」とチャレンジャー教授、「きみの比喩をもう少し拡大させてもらうならばまことにたのもしい味方とも言える。このブナの木はわれわれの救い主になるかもしれんぞ」「まったくだ!」ジョン卿が叫んだ。「これは橋になる!」「いかにも、橋だよ! わしはゆうべ解決策を考えあぐねてむざむざ一時間も浪費したわけではない。かつてこの若い友人に、G?E?Cは窮地におちいったとき真価を発揮する男だと語ったことがあるが、ゆうべのわれわれがその窮地にあったことは諸君も認めるだろう。しかし意志の力と頭脳が手を組めば、かならず策はあるものだ。この空間にかかるはね橋さえあればよかった。見たまえ!」 確かにすばらしい思いつきだった。木の高さは優に六十フィートはあるから、倒れる方角さえうまくいけば楽にこの空間を渡ることができる。チャレンジャーはテント用の斧おのをちゃんと用意してきており、それをわたしに手渡した。
「この若い友人はりっぱな体をしているから、この仕事にはもってこいだろう。ただし自分勝手にやられては困る、ちゃんと指示通りにやってくれたまえ」 わたしは彼の指示に従って、木が望ましい方向に倒れるように根元に切りこみを入れた。もともと台地のほうにかなり傾いていたから、これはさほどむずかしい仕事でもなかった。やがてジョン卿と交替で熱心に斧をふるいはじめた。一時間とちょっとたったころ、大きなはじけるような音がして木は前方に傾き、やがて向こう側の茂みを枝で押しつぶすようにしてどうと倒れた。幹の根元が切株からはなれてわれわれのいる平地のはしまで転がっていき、一瞬これで万事おしまいかと思わせたが、数インチの差でかろうじてとまった。こうして秘境への橋ができあがった。
 三人は言葉もなくチャレンジャー教授に握手を求めた。教授は一人一人に丁重なおじぎをした。
「最初に秘境へ渡る栄誉は」彼は言った。「当然このわしがになうべきだと思う――きっと将来描かれる歴史画の絶好の画題になることだろう」 彼が橋に近づいたとき、ジョン卿が手で上着のすそをおさえた。
「ちょっと待った。わたしがそうはさせませんよ」「そうはさせんだと!」教授は顔をそらせてひげをぐいと突きだした。
「これが科学に関する問題だったら、科学者であるあなたの先導に喜んで従いますよ。だがこれはわたしの領分だから、あなたのほうが従う番です」「きみの領分とは?」「人それぞれ専門があるが、わたしのは兵法ですよ。わたしに言わせれば、われわれは今新しい国に侵略を開始するところだが、そこには敵がうようよしているかもしれない。わずかばかりの良識と忍耐心を欠いたために、その中へ盲めくらめっぽうに突進するようなのは、わたしの戦術にはないですからね」 彼の忠告にはなるほど一理あって無視するわけにはいかなかった。チャレンジャーは頭をひょいとあげ、重い肩をすくめた。
「では、きみの提案は?」
「わたしの判断では、あの茂みの中に食人種がいて昼飯の時間を待っているかもしれません」ジョン卿は橋のほうを見ながら答えた。「だから料理鍋で煮られてしまう前に知恵を働かせるほうがよろしい。何も問題がないことを望みながら、同時に問題があるかのように行動するのが賢明です。マローンとわたしがもう一度下へおりて、ライフル銃を四梃と、それにゴメスやほかの連中も連れてきましょう。それから一人だけ向こう側へ渡り、あとの者は銃で援護して、安全だとわかったら全員が渡ります」 チャレンジャーは切株に腰をおろして、くやしそうにうめいていた。しかしサマリーもわたしもこうした実際面の細かいことが問題になったらジョン卿が隊長として適任だという点では意見が一致していた。今は最大の難所に頂上からロープがぶらさがっているので、二度目の登はんはずっと簡単だった。一時間以内にライフルと散弾銃が運びあげられた。二人の混血土人たちがジョン卿の命令で食糧をかついで一緒に登った。最初の探検が長びいた場合にそなえるためである。各人が肩に弾薬帯をかけた。
「さて、チャレンジャー教授、あなたがどうしても一番乗りに固執されるなら」と、すべての準備がととのったころ、ジョン卿が言った。
「きみの寛大な言葉をわしは深く恩に着る」と、教授がぷんぷん怒りながら答えた。というのも、これほどあらゆる権威に反感を持つ人もいないからである。「お許しをいただいたからには、開拓者として恥ずかしくない行動をお目にかけよう」 木にまたがって両脚を空間にぶらさげ、手斧を背中にかついだチャレンジャーが、ひょこひょこ体を動かしながら間もなく向こう側へ行きついた。彼は這うようにして崖の縁に立ち、こっちに両腕をふりかざした。
 

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11/24 20:06