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十 不可思議な事件(3)_失われた世界(失落的世界)_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3338
「今こそ行かしめたまえ!」ようやくサマリーが口をきった。「イギリスではこれをなんというだろう?」「サマリー君、イギリスでどう迎えられるかわしは確信をもって言える」とチャレンジャー、「きみはとんでもない大嘘つき、科学界のペテン師と罵られるだろう。つまりかつてのわしと同じ目に会うのだよ」「写真をつきつけてもか?」
「にせものだと言われるさ、サマリー君! おそまつなにせものだとな」「標本を見せたら?」「それなら信用されるだろう! そうすればマローン君やフリート?ストリートの彼の仲間どもも、ようやくわれわれに対する賛辞を書きつらねるだろう。八月二十八日――この日われわれはメイプル?ホワイト台地の空地において五頭の禽竜イグアノドンを見る。マローン君、きみの日記にこう書いて、新聞に送ってやりたまえ」「その返信に編集長の靴の爪先きがとんでくるかもしれないから用心しろ」ジョン卿が言った。
「ロンドンとここでは緯度がちがうから物の形がちがって見えるかもしれん。どうせ信じてもらえそうもないからという理由で、自分の冒険談を語らない人間も大勢いるんだよ。
だが信用してくれないからといって非難はできない。一、二か月たてばわれわれ自身にだって夢だったとしか思えなくなるさ。ところで今の動物をなんと言いましたっけ?」「禽竜イグアノドンだよ」サマリーが答えた。「ケントとサセックスのヘイスティングズ砂岩には、いたるところこいつの足跡が残っている。イングランド南部の緑の植物が繁茂していた時代には、それを餌にして禽竜が沢山繁殖していたのだ。やがて自然条件が変化して彼らは死に絶えた。ここでは自然条件も当時のままで、連中もいまだに生き残っていると見える」「生きてここから帰れるとしたら、なんとかしてあいつの首を持ち帰りたい」ジョン卿が言った。「ソマリランドやウガンダの土人にそれを見せたら、さぞまっ青になってふるえあがることだろうな。あなた方はどう思っているか知らないが、われわれは思ったより危険な場所にいるようですよ」 わたしも身のまわりに同じような謎と危険を感じていた。薄暗い森の中には何か恐ろしいものがひそんでいるようだったし、上を見あげれば黒っぽい葉むらから漠然とした恐怖が体の芯しんまでしのびこんでくるようだった。なるほどわれわれが見た巨大な動物は、一見不器用で無害らしく、人間を傷つけることはありそうもない。しかしこの驚異にみちた世界には、ほかにもどんな動物が生き残っていることか、どんな兇暴な野獣が岩や茂みの中の巣窟からとびかかってくるか知れたものではない。先史時代の動物についてはほとんど知識がないが、猫が鼠をとるようにライァ◇や虎を餌食にする動物のことを、何かの本で読んだ記憶がある。メイプル?ホワイト台地でこんな動物が発見されたらいったいどうなることか!
 われわれはこの日の朝、新世界での第一日目にして早くも、身のまわりの未知の危険にめぐり合う運命にあったのだ。思いだすだけでも身ぶるいのするような恐ろしい冒険だった。ジョン卿の言うように禽竜のいた空地が夢としか思えないなら、翼手竜の沼地はいつまでも消えない悪夢として残るだろう。とにかく事件の経過を正確に書きとめておく。
 われわれはゆっくりと森の中を進んだ。一つにはジョン卿が物見の役を買って出て、安全を確かめてからわれわれを前進させたからであり、一つには教授たちのどちらか一方が、ほとんど一足ごとに花や昆虫の新種を発見してはかがみこんだからである。小川の右岸にそってつごう二、三マイルも進んだかと思われるころ、またもや森の中のかなり広い空地にたどりついた。帯状の茂みが重なり合った岩までつづいていた――このように台地の方々に丸石が転がっているのだ。腰までとどく茂みをかきわけながらこの岩をめざしてゆっくりと進んでいるとき、耳なれない奇妙な低い話し声のような音や口笛のような音が聞こえてくるのに気がついた。音の震源地は少し先きへ行ったあたりらしく、あたりの空気は絶えずこの騒々しい音でふるえている。ジョン卿が片手をあげて停止を命じ、自分は背中を丸めて小走りに岩の並んだところまで進んだ。彼は岩の上から向こう側をのぞいてみて、驚きの身ぶりを示した。それから、われわれの存在を忘れてしまったかのように、夢見心地で立ちあがった。ようやくこっちへこいという合図を送ってよこしたが、用心のしるしに片手をさしあげたままだった。
 足音をしのばせて彼のそばまで近寄り、岩の上からのぞいてみた。そこはすりばち状の凹地で、おそらく大昔は台地の比較的小規模な噴火口だったものと思われた。われわれのいる場所から数百ヤードのところにあるすりばちの底には、水あかで緑色に腐った水がたまっていて、そのまわりにはガマの穂がはえていた。凹地自体が不気味な場所だが、そこに棲息している動物たちが加わって、ダンテの地獄篇の一場面を思わせる陰惨な光景を呈していた。ここは翼手竜の巣なのだ。何百という見わたすかぎりの大群である。水たまりの周辺には赤ん坊たちが群がり、恐ろしい姿をした母親たちが硬質の黄色い卵を抱いていた。爬虫類とも鳥類ともつかないこの醜悪な生き物の巣窟から、恐ろしい鳴き声がおこってあたりの空気をふるわせ、ぞっとするようなかびくさい瘴気しょうきが立ちのぼって吐き気をもよおさせた。だが上のほうでは、生き物というより剥製の標本という感じのする大きな灰色のひからびた雄どもが、それぞれ一個の石をひとりじめにして翼を休めている。時おり赤い目をくるくるっと動かし、鼠罠のようなくちばしをあけてトンボをパクリとやるとき以外は、身動き一つしない。巨大な膜状の翼がたたまれているので、いやらしいくもの巣色のショールを肩にかけ、そのうえに残忍そうな顔をひょっこり突きだした巨人の老婆のように見える。大小とりまぜて少なくとも千匹が目の前の凹地に群がっていた。
 教授たちは丸一日でも喜んでその場所にがんばっただろう。先史時代の動物を観察するこの恵まれた機会に、二人はそれほど夢中になっていた。岩の間に散らばった魚や鳥の死骸を指さして、これで彼らの食物がわかったと言い合い、この空飛ぶ竜の骨が、ケンブリッジ地方の緑砂の中に見られるように、一か所にかたまって発見される謎がこれでとけたと喜び合った。つまり翼手竜はペンギンと同じように群棲動物だというのである。
 やがてサマリーと意見の衝突をきたしたチャレンジャーが、自説を証明しようとして岩の上に顔を突きだしたために、あやうく破滅的な事態を招くところだった。その瞬間一番近くにいた雄が鋭い笛のような鳴き声を発し、二十フィートはあろうかと思われる革質の翼をはばたいて空に飛びあがった。雌や子供が水ぎわに寄りつどう間に、まわりを囲んだ見張りの雄どもがつぎつぎと立って空に舞いあがった。巨大な体と醜悪な姿を持つ彼らが、百匹以上で群をなして、つばめのように軽やかな力強い羽さばきで頭上を飛びまわるさまは、まさに壮観というほかはなかったが、間もなく感心して見とれてはいられないことに気がついた。はじめのうちは大きな輪を描いて飛んでいたが、これはいわば危険がどこまで迫っているかを確かめるためだったらしい。やがてしだいに高度がさがり、円周もせばまってきて、ついには乾いた翼の音が聞こえるところまで迫ってきて、頭の上をかすめそうにぐるぐるまわりはじめた。あたりの空気をふるわせるこの大きな羽音は、競技会当日のヘンドン飛行場を思わせるものがあった。
 

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11/24 21:45