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十一 このときだけはわたしも英雄(1)_失われた世界(失落的世界)_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336
十一 このときだけはわたしも英雄
 われわれを襲った恐るべき生物の咬傷こうしょうに、何か特別な毒があるかもしれないというジョン?ロクストン卿の推測は、ずばり的を射ていた。最初の台地探検の翌朝、サマリーとわたしは激しい苦痛と高熱に見舞われ、一方チャレンジャーの膝の打ち身も、びっこをひいてさえ歩けないほどひどかった。仕方なくその日は一日キャンプにとどまって、ジョン卿が唯一の防御物であるいばらの壁を、いっそう高く、厚くするのを、われわれにできる範囲で手伝った。その長い一日、どこからだれにとは言えないが、絶えず監視されているような気分がつきまとったことをおぼえている。
 その感じがあまりに根強かったので、わたしはチャレンジャー教授にそのことを打ち明けたのだが、熱にうなされているせいだと、一言のもとに片づけられてしまった。きっと今度こそは何か見えると確信しながら、何度もすばやく周囲を見まわした。しかし、目に入るものは、黒っぽくもつれ合った柵か、頭上をおおう巨木の荘厳でうつろな暗がりだけだった。それでも、何かわれわれに敵意を抱くものが近くで様子をうかがっているという感じは、ますます強まった。わたしはふとインディアンの迷信クルプリ――森にひそむ恐ろしい妖精――を思いうかべた。それが森の奥深い聖域に侵入した人間にとりつくというのは、考えられないことではない。
 その夜(つまりメイプル?ホワイト台地で迎える三日目の夜)、われわれはとうてい忘れることのできない恐ろしい体験をした。それにつけても、ジョン卿が骨折って防壁を強化してくれたことに感謝しなければならない。消えかかった火を囲んで眠っているとき、われわれは、聞いたこともないような一連の恐ろしい叫び声で目をさました――というより、眠りを叩き破られたというべきか。その不思議な音は、なんにたとえていいかわからないが、われわれのキャンプの数百ヤード以内から聞こえてくるもののようだった。蒸気機関車の汽笛のようにけたたましい音だが、それでいて澄んだ、機械的な、鋭い汽笛とはちがい、音量がはるかに豊かで、苦痛と恐怖の極度の緊張でふるえている。われわれはこの神経をかきまわすような音を遮断するため、両手で耳をおおった。全身に冷汗がにじみ、物悲しいその鳴き声を聞いているうちに心臓まで苦しくなった。不幸な人生のありとあらゆる嘆きが、恐ろしい天の告発が、そして尽きざる悲しみが、すべてこの恐ろしい、苦痛の叫び声に集中し、圧縮されているように思えた。やがて、この鋭く響きわたる音にまじって、もう一つ別な音が聞こえはじめた。それは、最初のにくらべてとぎれとぎれで、腹の底から響く笑い声のようでもあり、喉を鳴らすような騒々しさが、はじめの鋭い音にからんでグロテスクな伴奏をなしていた。この恐ろしい二重唱は三、四分もつづいたろうか、その間に驚いて飛び立つ鳥の群で、木の葉がざわざわと揺れた。やがて、はじまったときと同じように、突然ピタリと物音がやんだ。われわれは長い間恐ろしさのあまり無言で坐っていた。やがてジョン卿が小枝を一つかみ火にくべたので、赤い焔が仲間の緊張した顔を照らしだし、頭上の大枝にちらちらと揺れた。
「あれはなんだろう?」と、わたしが小声で言った。
「夜が明ければわかるよ」と、ジョン卿。「いずれにせよ近かった――空地の中の音だ」「われわれは先史時代の悲劇を洩もれ聞く特権を与えられたらしい。あれはジュラ紀の沼地のはずれに生い茂るアシの中で、大きな恐竜が小さなやつを軟泥の中に追いつめた一幕だな」と、チャレンジャー教授がかつてないほど厳粛な声で言った。「創造の過程で、人類が遅れてやってきたのは幸運だった。人類出現以前には、人間の勇気や道具ではとうてい太刀打ちできない強力な生き物がはびこっていた。さっきあばれまわっていたような怪物を相手にして、人間のいしゆみや投げ槍やりや弓矢がなんの役に立つだろう? 現代のライフル銃だって、ほとんど勝目はないくらいだ」「わたしも同感です」と、ジョン卿がエクスプレス銃を撫でながら言った。「それにしても、あの怪物を相手に一勝負やってみたかったですな」 サマリーが片手をあげた。
「シーッ! 何か物音が聞こえるぞ!」
 コトリともしない静寂を破って、ドサッドサッと重々しい規則的な音が聞こえてくる。
荒々しくはないがいかにも重そうな足が地面を踏みしめる音――まぎれもなく動物の足音だ。それはキャンプの周囲をゆっくりまわって、入口の近くでとまった。低い、波打つような空気の音――怪物の呼吸の音だ。この夜の恐怖からわれわれを護るものは、弱々しい柵一つしかない。みんなライフルを手にとり、ジョン卿が銃眼をつくるために小さな枝を引き抜いた。
「おお! 姿が見えるようだぞ!」
 わたしは中腰になって、彼の肩ごしに銃眼からのぞいてみた。たしかに見える! 黒い木々の間に、ひときわ黒い漠とした影が見える――猛々しい力をみなぎらせた威嚇的な姿がうずくまっている。背丈は象より高くはないが、おぼろげな輪郭が巨大な体と怪力を思わせる。エンジンの排気音のように規則的で力強い呼吸から、途方もない生命力がうかがわれる。それが動きだしたとき、二つの恐ろしい緑色の目の輝きが見えたような気がした。ゆっくり前へ動きだしたような、気持の悪い音がした。
「きっと跳びかかってくるぞ!」わたしは銃の打金をおこしながら言った。
「撃つな! 撃ってはいかん!」とジョン卿がささやいた。「こんな静かな夜に発砲すれば、何マイルも先さまで聞こえるだろう。銃は最後の切札にとっておくんだ」「柵を乗りこえられたら、われわれは破滅だ」と、サマリー。その声は神経質な笑いに変わった。
「いや越えさせはしない」ジョン卿が叫んだ。「だが、いよいよというときまで撃たないでください。あいつをなんとか始末できるかもしれん。とにかくやってみます」 人間の行為でこれほど勇敢なものを見たことがない。彼は焚火の上にかがみこんで燃える枝を一本手にとり、引きとめる間もなく、自分で門にあけた出撃口からするりと抜けだした。怪物は恐ろしい捻り声を発しながら近づいてくる。ジョン卿はひるむどころか、軽くすばやい足どりでそいつに駆け寄り、鼻面にたいまつを突きつけた。一瞬、巨大なひきがえるのような、いぼだらけの鱗におおわれた顔、クワッとあけた口から生血をしたたらせた顔が浮かびあがった。と思う間もなく、茂みにざわざわと音を残して、恐ろしい訪問者は姿を消した。
「火には向かってこないと思ったんだよ」戻ってきて枝を焚火の中に投げだしたジョン卿が、笑いながら言った。
「あんな危険なことをやってはいけない!」と、われわれが口を揃えて叫んだ。
「ああするより仕方がなかったんです。もしあいつが柵を越えていれば、われわれはあいつを仕とめようとして同志射ちをしていたかもしれません。また、柵ごしに発砲してあいつを傷つければ、たちまち襲いかかってきたでしょう――もちろん、そうなるとわれわれはおしまいだ。まあ、うまく危機をのがれたわけですよ。それにしても、あいつは何者でしょう?」 学者先生たちは即答しかねておたがいに顔を見合わせた。
 

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11/24 21:54