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十二 森の中の恐怖(4)_失われた世界(失落的世界)_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336
 落し穴の急な壁は元気のいいものならばよじのぼるにさほどむずかしくはなさそうだが、あやうく殺されかけた恐るべき敵がまだ近くにいるだろうと思って、長い間おとなしく待っていた。敵が近くの茂みに隠れて、わたしが現われるのを待っていないという保証はない。だが大とかげ類の習性に関するチャレンジャーとサマリーの会話を思いだすと、勇気がよみがえってきた。彼らには脳というものがほとんどなく、小さな頭蓋腔では物を考えるほどの力はない、したがって彼らが地球上から消滅したとすれば、その原因は変化する状況に適応できなかった知能の低さのせいだという点で、二人の教授は同意見だった。
 彼が茂みにひそんでわたしを待っているとすれば、わたしの身に何がおこったかを理解しているということになり、彼らにも原因と結果を結びつける知力があるということになるだろう。漠然とした掠奪本能だけで動いている脳味噌の足りない動物だったら、獲物の姿が視界から消えたとたんに追跡をあきらめ、しばらくは不思議に思ってその場にとどまるかもしれないが、やがて新しい餌を求めて立去るということも十分考えられるのではないだろうか? わたしは穴のふちまでよじのぼって外の様子をうかがった。星は薄れかかり、空が白みかけて、ひやりと肌に快い朝の風が頬を撫でる。敵の姿も見えなければ物音も聞こえない。わたしはゆっくりと外に出て、しばし地面に坐りこんだ。もちろん危険が迫ったらすぐにも穴の中へ舞い戻るつもりで。やがて、物音は全然しないし夜も明けはじめたので、勇を鼓して今きた道をこっそり戻りはじめた。しばらく行ったところで投げ捨てた銃を拾い、間もなく道しるべの小川までたどりついた。そこから何度も恐る恐るふりかえりながら、キャンプへの帰途についた。
 突然ある物音が忘れていた仲間のことを思いださせた。澄みきった静かな朝の空気の中を、遠くのほうから鋭い銃声が鳴り響いたのである。立ちどまって耳をすましたが、それっきりあとは何も聞こえなかった。一瞬、仲間の身にも危険がふりかかったのではないかと考えてぞっとした。が、やがてもっと単純で自然な説明が心に浮かんだ。もうすっかり夜も明けている。彼らはわたしが森の中で迷ったものと思いこみ、銃声で方角を知らせようとしたのだ。発砲禁止の申し合わせがあることは事実だが、わたしが危険に陥ったと考えた場合、彼らはためらわずその禁を破るだろう。だから一刻も早くキャンプへ帰って彼らを安心させなければならない。
 くたくたに疲れていたので、気ばかりせいても足は速くなかった。だがようやく見おぼえのある場所にたどりついた。左手に翼手竜の沼地があり、前方には禽竜の空地が見える。わたしはチャレンジャー砦の手前にある最後の森に入ったのだ。彼らの心配を解消するために、はずんだ声で呼びかけた。しかしなんの応答もない。わたしは不安に襲われた。でかけたときとそっくり同じ姿の防柵が目の前に現われたが、入口があいたままになっている。急いで内部に走りこんだ。冷たい朝の空気の中で、恐ろしい光景が目に入った。荷物はめちゃめちゃに散乱し、仲間の姿はなく、くすぶりつづける火のそばの草が恐ろしい血だまりでまっ赤に汚れている。
 わたしはこのショックに茫然として、しばし自失の態だったに違いない。悪夢の記憶があとからよみがえってくるように、大声で仲間の名前を呼びながら、人気のないキャンプの周囲の森を夢中で走りまわったことを、今もおぼろげに記憶している。しずまりかえった薄暗がりの中からはなんの応答もなかった。もう彼らとはめぐり会えないのではないか、自分一人だけ下界へ降りる方法もなく恐ろしい土地に置き去りにされたのではないか、この悪夢のような土地で死んでいかなければならないのではないかという恐ろしい考えが、わたしを絶望の底へ突きおとした。髪の毛をかきむしり、頭を殴りつけたいような気持だった。今になってはじめて、自分がどれだけ仲間を頼りにしていたかが身にしみてよくわかる。チャレンジャーの落ちつきはらった自信、ジョン卿の自信とユーモアにみちた冷静さが、わたしにとってなくてはならないものだったのだ。それなしには、暗闇にほうりだされた無力な子供のように手も足もでない。どっちを向けばいいのか、何から手をつけていいのかさえわからない始末だった。
 しばらくの間途方に暮れて坐っている間に、どんな不幸が突然仲間を見舞ったのかつきとめようという気になった。キャンプの乱雑な様子を見れば、何物かに襲われたことは疑いない。さきほど聞いた銃声はその時間を示している。しかも銃声がたった一発しか聞こえなかったということは、それがあっという間に終わったことを物語っている。ライフル銃は地面に残されたままになっていて、その一梃――ジョン卿の銃――の床尾には空の薬莢が残っている。チャレンジャーとサマリーの毛布が焚火のそばにあるところを見ると、寝こみを襲われたらしい。弾薬と食糧の箱が、不幸な写真機や感光板ケースとともに乱雑に散らばっているが、数はちゃんとそろっている。ところが箱からとりだしておいた食糧は――かなりの量だったと記憶しているが――すっかり姿を消している。したがって侵入者は土人ではなく動物らしい。土人なら洗いざらい奪い去るはずだからである。
 しかし動物の群、あるいは一匹の兇暴な動物に襲われたのだとしたら、仲間の身はどうなったのだろう? 猛獣ならば疑いもなく彼らを殺して、何か痕跡を残してゆくはずだ。
なるほど恐ろしい血だまりが格闘を物語ってはいる。途中でわたしのあとをつけたようなやつなら、猫が鼠を引きずるように、易々と犠牲いけにえを引きずってゆくだろう。その場合残る二人があとを追いかけることは十分考えられる。しかし、それならばライフル銃を残して行くのはどう考えても理屈に合わない。混乱し、疲れきった頭で答を見つけだそうとつとめればつとめるほど、いよいよ納得のゆく説明から遠ざかるばかりだった。森の中を探しまわったが、結論を引きだせそうな痕跡は全然見つからない。それどころか自分自身が道に迷ってしまい、わずかにまったくの幸運から、一時間ほどさまよい歩いたのちやっとキャンプに帰り着くことができた。
 突然ある考えが浮かんでいくぶん気持が楽になった。この世の中でわたしはまったくの一人ぼっちではない。断崖の下の、声をはりあげればとどくところに、忠実なサンボが待っている。そう思って台地の縁まで行き、下のほうをのぞいてみた。小さなキャンプの焚火のそばで、毛布をかぶってうずくまっているのは、まぎれもなくサンボだ。ところが、驚いたことにもう一人の人間が彼と向かい合って坐っている。仲間の一人が安全な下り道を発見したのかと思って、一瞬わたしの心は喜びではずんだ。しかしもう一度よく見たときその希望はけしとんだ。のぼる朝日がその男の赤い肌を照らしている。インディアンなのだ。わたしは大声をはりあげ、ハンカチをふった。やがてサンボが上を向き、片手をふってから三角岩にのぼりかけた。間もなく彼はわたしのすぐ目の前に立ち、わたしの報告に深い悲しみの表情で聞き入った。
「きっと悪魔に襲われたんですよ、マローンさま」と彼は言った。「みなさんが悪魔の土地に踏みこんだので、やつが怒ってみなさんを捕えたに違いないです。早く下に降りないとあなたもやられてしまいますよ、マローンさま」「どうやって降りたらいいんだ、サンボ?」「木にからんだ蔓を手に入れて、ここまで投げてください。この切株にしっかり結びつければ、橋ができあがります」「われわれもそのことは考えた。こっちには人間一人を支えるほど丈夫な蔓がないんだ」「ではロープをとりにやらせなさい」「だれをどこへとりにやらせるんだ?」
「インディアン部落へです。あそこには革紐がたくさんあります。下にいるインディアンを使いに出しましょう」「あの男はだれだ?」
「ここから帰って行ったインディアンの一人ですよ。仲間に殴られて金をとられたのでまたここへ戻ってきました。手紙を持たせてもいいし、ロープを持ってこさせてもいい――なんでも言うことをききます」 手紙だって! もちろん頼みたい! その男はわれわれを助けてくれるかもしれない。
かりに命が助からなかったにしろ、われわれの死が無駄には終わらないだろう。われわれが科学のために死を賭して手に入れた貴重な資料が祖国の友人たちの手に渡ることがこれではっきり保証された。すでに書き終わった手紙が二通もわたしの手もとにある。今日は一日がかりでわたしの最近の体験を三通目の手紙にまとめるとしよう。インディアンはこの手紙を文明世界へ持ち帰ってくれるだろう。そこでサンボに夕方もう一度のぼってくるように命じたのち、このみじめで孤独な一日を費やして昨夜の体験を書きつづった。同時にもう一つ短い手紙を書いて、インディアンが最初に出会う白人商人か川船の船長に渡させることにした。われわれの生死がそれにかかっていることを説明して、ロープを送ることを依頼する手紙である。夕方それとソヴリン金貨が三枚入っている財布をサンボに投げて渡した。これは使いのインディアンへの報酬だ。ロープを持って戻ってきたら、さらにその倍額を与えることを約束した。
 親愛なるマッカードル氏よ、これでいかにしてこの手紙があなたの手まで届いたかおわかりいただけたことと思う。また、あなたの不幸な特派員からの音信がこれでとだえたとしても、事の真相は明らかになるわけです。今夜ははなはだしい疲労と落胆のため、計画をたてる気にもなれない。明日はこのキャンプと連絡をとりながら不幸な仲間の手がかりを探しまわる方法を考えださなくてはなるまい。
 

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11/28 17:16