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破られた約束 一_小泉八云_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336
破られた約束
Of a Promise Broken
小林幸治訳
※出雲の伝説
   一
「死ぬのは怖くありません。」死にかかった妻が言う──「今ひとつだけ心配が有ります。
この家の私の立場に、どなたがお成りになるのでしょう、それが知りとうございます。」「おまえ、」悲痛な声で夫が返す「この家では、誰もおまえの立場に決して就かせはしない。わしは決して、決して再婚をしない。」
 その時こう言ったのは、失われゆく女を愛するがゆえの心からの言葉である。
「侍の信念に誓って、でございますか」弱々しく微笑みながら訊たずねた。
「侍の信念に誓ってだ。」夫が答える──やつれた青白い顔を撫でながら。
「でしたら、あなた」妻が言う「お庭に葬っていただきたいのです──ふたりで向こう側に植えた、あの梅の木々の側そばへ──いかがでしょうか。ずっと前からこのお願いをしたかったのですが、思うに、もしも再婚なさるなら、こんな近くにお墓が有っては面白くないでしょう。今あなたは他の女房にょばを後へ置かないとお約束なさいました──ですから遠慮なく望みをお話しできます……私はお庭への埋葬をそれはもう強く望んでいるのです。お庭なら時にはあなたのお声が聞こえるでしょう、それにまだ春のお花が見られましょう、そう思うのです。」
「おまえが望むようにしよう、」夫が答えた。「だが今は埋葬の話をするな、望みが全く無いほどひどい病ではない。」
「私は……」妻が返す──「朝の内に死にます……お庭に葬っていただけますか。」「ああ、」夫が言う──「ふたりで植えた梅の木陰の下へ──そこで綺麗な墓石の持ち主となろう。」
「それに、小さな鈴を頂けますか。」
「鈴を」
「はい、小さな鈴をお棺の中に置いて頂きとうございます──お遍路さんが持ち歩くような小さな鈴でございます。頂けますか。」
「おまえは、小さな鈴を持つことになろう──他に何か望みは有るか。」「他には何も望みません、」と言って……「あなた、あなたはいつでも、とても良くして下さいました。今は幸せに死ねます。」
 それから目を閉じて死んだ──疲れた子供が眠りに落ちるような安らかさであった。顔に笑みを浮かべて死に、この時は美しく見えた。
 彼女は庭の愛した木の陰の下へ葬られ、小さな鈴も一緒に埋められた。墓には綺麗な石碑が建てられ、一族の家紋で飾られ、戒名が刻まれた──「慈海院梅花庵照影大姉」 ………
 しかし妻の死から十二カ月も経たぬうちに、侍の親類と友人は再婚を強く奨すすめ始めた。「お主はまだ若い、」と言い「それにひとり息子な上に子供が無いではないか。結婚も侍の務めだ。もし子の無いまま死んでみろ、ご先祖様を忘れず、お供えをするのは誰になるんだ。」
 多くのそうした進言によってとうとう再婚の説得に応じた。新婦はほんの十七歳であったが心から愛せるのを知る、物言えぬ庭の墓石が悲しげに非難してさえも。
 

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11/25 07:08