一、狐火きつねび
ウィル?オー?ザ?ウィスプは『狐火』と呼ばれるが、昔は妖狐がそれを生成すると想像されたからである。古い日本の絵画でそれは、暗闇を浮遊する青白く赤い舌のように表現され、すっと動く時に外面が発光を放たない。
この主題で取り上げる幾つかの狂歌を理解するため、読者は狐が起こす各種のおかしな言い伝えの妖力について、ある迷信を知っておくべきだ──他所者との結婚に関するもののひとつである。以前のまともな一般人は、外部ではなく自身の共同体からの結婚を期待され、この考えの中で伝統的な慣例を無視する男は、それの集団的な憤怒をなだめるのが困難であると悟る。今日でさえ、長らく生まれ故郷を留守にした後の村人が見知らぬ嫁を連れて帰ると、もっともらしく意地悪な事を言われる──このように、「分からない物を引っ張って来た……何処どこの馬の骨だ。」(「誰も知らないどんな種類の物をここまで後ろに引きずるのか、何処で拾い上げた古い馬の骨なのか。」)馬の骨、「古い馬の骨」の表現は説明を要する。
妖狐は多くの形をとる力を持つが、男を騙す目的のため通常は可憐な女の姿をとる。
この種の魅力的な見せ掛けを造ろうとすると、古い馬の骨か牛の骨を拾い上げて口に咥くわえる。やがて骨は光り輝き、その回りに──遊女か芸妓げいこの形体で──女の姿の輪郭を形成する……そういう訳で、見知らぬ嫁と結婚する男への疑問について「どんな古い馬の骨を拾い上げたのか」が本当は、「どんな尻軽女が誘惑したのか」という意味になる。それは更に、他所者は特殊部落の血筋かも知れないという疑いを含んでいる 。
ある種の遊び女めは、古くから主にエタや他の下層階級の娘の間から募集されてきた。
灯ともして
狐の化せし、
遊び女は
いずかの馬の
骨にやあるらん
〔──ああ、その尻軽女は(提灯に灯を点けて)──そうして狐が変化へんげする狐火を燃やす……おそらく本当は何処かしらの古い馬の骨でしかない……〕 狐火の
燃ゆるにつけて、
わがたまの
消ゆるようなり
こころほそ道
〔この狭い道で(あるいは、この気が滅入る寂しい場所で)狐火が燃えているから、まさに私の魂は消えていくようだ。〕