六、雪おんな
雪の女、あるいは雪の残像、様々な形態を想定されているが、古い民話のほとんどに美しい見掛けで現れ、その抱擁は死である。(彼女についての非常に珍しい話が拙著「怪談」で見付けられる。)
雪おんな──
よそおう櫛も
厚氷あつこおり
さす笄こうがいや
氷なるらん
〔雪おんなであるなら──最高の櫛でさえ、間違っていなければ、厚い氷で作られる、そして髪留めも、氷で作られているだろう。〕
本来は
空くうなるものか、
雪おんな
よくよく見れば
いち物ぶつもなし
〔全く初めの時から錯覚だったのか、あの雪おんなは──虚空へ消えていく物なのか?注意深く辺りの全てを見たが、痕跡はひとつとして見当たらなかった。〕 夜明ければ
消えてゆくえは
しらゆきの
おんなと見しも
柳なりけり
〔日の出に消えて行った(雪おんな)、何処へ行ったかは何も言えない。しかし実際は一本の柳の木が、白い雪の女になったように見える。〕 雪おんな
見てはやさしく
松を折り
生竹ひしぐ
力ありけり
〔見掛けは細身で優しい雪おんなが現れたとはいえ、それでも、ポキッと松の木を真っぷたつにし、生きた竹を押しつぶす力を持っているはずだ。〕 寒けさに
ぞっとはすれど
雪おんな──
雪折れの無き
柳腰かも
〔雪おんなが冷気で震えのひとつを作り出したとしても、すらっとした優雅さは雪にも崩されない(換言すれば、寒さにも関わらず我々を魅了する)。