九、家鳴やな り
最近の辞書は『家鳴り』の言葉の妖しい意味を無視する──地震の間に家が揺れて出る音と伝えるのみである。しかし、この言葉は、かつて妖魔が家を動かして揺れる物音を意味し 、目に見えない揺らす存在も『家鳴り』と呼んだ。明白な原因が無く、夜中にいくらか家が震えて、きしみ、音を立てると、かつて庶民は超自然的な悪意によって、外から揺らす存在を想定した。
床の間に
生けし立ち木も
たおれけり、
家鳴りに山の
動く掛け物。
〔床の間に置いた生きた木でさえ倒れ伏し、吊られた絵の山々は家鳴りの作る振動で震える。〕