十、逆さ柱ばしら
『逆さ柱』(この狂歌では、しばしば『逆柱さかばしら』と短縮される)の用語の文字通りの意味は、「上側が下になった柱」。木の柱は、特に家の柱は、切り倒された木の本来の姿勢と一致して据え付けなくてはならない──つまり、最も根に近い部分を下へ向ける。家の柱を反対のやり方で立てると、不運を招くと考えられた──以前はこのような失敗は、「逆さま」の柱が悪質な事をしようとするから、一種の霊的に不愉快な事象に巻き込まれると信じられた。夜中に嘆きや呻きをあげ、割れ目の全てを口のように動かしたり、全ての節ふしを目のように開いたりする。更に、その霊魂は(家の柱の全ては霊魂を持つため)材木から長い体を取り外し、部屋から部屋を回ってぶらつき、逆さまの頭で、人々へしかめっ面をする。これで全てという物でも無かった。『逆さ柱』のひとつは、どうやって一家の全ての事態に狂いを作り出すかを知っていた──どうやって家庭内のいざこざを煽動するか──どうやって家族と使用人のそれぞれに、不運を招き寄せるか──どうやって生きていくのが耐えられなくなる寸前へ、大工のへまを見つけ出して、矯正するしかなくなるまで追い込むのかである。
逆柱
たてしは誰たぞや
心にも
ふしある人の
仕業なるらん
〔誰が逆さに家の柱を設置したのか。きっと心に節を持つ人の仕事に違いない。〕 飛騨山を
伐きりきてたてし
逆柱──
なんのたくみの
仕業なるらん
〔あの家の柱を、飛騨の山から切り倒して、それからここへ持ち込んで、逆さまに立てるとは──大工仕事の何ができるというのか。(あるいは、「何の悪だくみが、この行為を実行することで、できるのか。)〕
うえしたを
違えて立てし
柱には
逆さまごとの
うれいあらなん。
〔上下を間違えて立てた家柱に関しては、必ず災難と悲しみの原因になるだろう。〕 壁に耳
ありて、聞けとか
逆しまに
立てし柱に
家鳴りする音
〔おや、壁に有る耳よ、汝は聞こえるか、逆さまに立てられた家柱の呻うめきと軋きしみが。〕
売り家の
あるじを問えば
音ありて、
われ目が口を
あく逆柱。
〔売り家の主人に問いかけた時、応答に奇妙な音だけがあった──逆さ柱が目と口(言い換えれば、それらの亀裂)を開ける音だ。〕
おもいきや
逆さ柱の
はしら掛け
書きにし歌も
やまいありとは
〔誰が思えるのか──逆さまに立てられた柱に掛かる、額に書かれた詩でさえ、同じ(霊的)病気を持つとは。〕