十二、海坊主
テーブルの上に大きなイカを、体を上向きに、触手を下向きに置きなさい──『海坊主』つまり海の僧侶を想像する最初の暗示、奇怪な現実を前にするだろう。この配置で下の方にぎょろ目の付いた大きなつるつるの体に、僧侶の剃った頭との歪められた類似が有り、底を這う触手の(黒ずんだ膜で繋がった種もある)様子は、僧侶の上着の衣が揺れる動きを暗示するからである……日本の妖しい文学と古風な絵本は、海坊主の姿をよく扱う。悪天候の大海から、獲物を捕まえに浮上する。
板ひとえ
下は地獄に、
すみぞめの
坊主の海に
出るもあやしな。
〔たった一枚張られた(船乗りと海を隔てる)板の厚みを除けば、そこから下は地獄、実に妖しい事に、黒で装う僧侶が浮上するだろう。(あるいは「誠に不思議な出来事は」等々。)〕