十三、札ふだ へがし
家は神聖な文字と護符によって悪霊から守られる。どんな村やどんな都市でも、夜に雨戸が閉じられた通りではこの文字が見られ、雨戸が戸袋の中に押し戻された日中は見えなくなっている。このような文字は『お札ふだ』(尊い手書き文字)と呼ばれ、白く細長い紙の上に漢字で書かれ米の糊のりで戸に貼り付けられ、種類も豊富である。幾つかの文字はお経から選ばれる──般若心経や妙法蓮華経などである。陀羅尼からの聖句もある──それは魔力を持つ。世帯の仏教の宗派を示す祈りだけのもある……他にも窓の上や脇、隙間に貼られた中小様々なこの文字や小さな版画を見ることができる──ある物は神道の神々の名前であり、別の物は象徴的な絵のみや、仏陀と菩薩の絵とかになる。全ては神聖な護符である──この『お札』は家々を守り、妖魔や幽霊は夜の間こうして護られた住居には、お札を外さなければ入れない。
怨霊は脅迫か約束や買収の努力をして誰かに外してもらわなくては、自身でお札を外せない。お札を戸から剥はがしてもらいたがる幽霊を札へがしと呼ぶ。
へがさんと
六字の札を、
幽霊も
なんまいだと
数えてぞみる
〔幽霊でさえ、六つの文字が書かれた護符を剥がそうとして、「何枚だ」と現物を数える試みを繰り返す(あるいは、「南無阿弥陀」と繰り返す)。〕 ただ一の
かみのお札は
さすがにも
のりけ無くとも
へがしかねけり
〔(家の壁に貼られた)神の尊いお札は、固定する糊が全く効かなくなっても、どんなに努力しようと一枚も剥がせない。〕