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妖魔詩話 十四、古椿ふるつばき_小泉八云_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3339
 十四、古椿ふるつばき
 昔の日本人には、昔のギリシャ人のように花の精と木の精霊の概念が有り、幾つかの可愛らしい話が語り継がれている。また木には悪意の有る存在も住むと信じられた──妖木。別の妖しい木の中で、美しい椿(キャメルジャポニカ)は不吉な木と言われている──少なくとも赤い花が咲く品種はこう言われ、白い花を咲かせる種はもっと評判が良く、珍品として大事にされる。大きくぼってりした深紅の花は、しぼみ始めると茎より自ら身を切り離し、ドサッと音を立てて落ちる珍しい習性が有る。昔の日本人にはこの重くて赤い花の落下が、刀で切り落とされる人の頭のように想像され、その鈍い落下音は切断された頭がドタッと地を打つようだと言われている。それでも日本の庭で気に入られて見えるのは、つやつやした葉振りの美しさが適しているからで、その花は床の間の飾りに使われる。しかし侍の家庭では、戦時の間は椿の花を決して床の間へ置かないしきたりが有った。
 読者は次の──収集品の中で最も気味悪く見える──狂歌で、椿の妖かしが「古椿」と呼ばれているのに気が付くだろう。若い木は妖かしの傾向は想定されていない──長い年を経た後の存在だけが発現させる。別の奇怪な木──例えば柳や榎えのき──も、同様に古くなった物だけが危険になると言われ、類似した信仰は──子猫の状態では無邪気だが、老年に魔性を帯びる──猫に見られるように、神秘的な動物を対象に普及している。
   夜嵐に
 血潮いただく
   ふるつばき
 ほたほた落ちる
 花の生首
〔夜の嵐によって振られた、血の冠と古椿、ほたほた(の音と共に)血みどろの花の頭が次から次へと落ちる。〕
   草も木も
 眠れる頃の
   小夜風さよかぜに
 めはなの動く
 古椿かな
〔草も木でさえ眠る頃の夜のそよ風の下──古椿が目と鼻を(あるいは、古椿が芽と花を)動かす。〕
   灯火ともしびの
 影あやしげに
   見えぬるは
 油しぼりし
 古椿かも
〔灯火の光が不気味に見える(理由)について──ひょっとして古椿(の実)から搾しぼった油なのだろうか。〕
 *  *  *
──この狂歌に書かれている話と民間信仰にまつわるほとんど全てがチャイナから渡来したように見え、日本の木霊の話の大部分はチャイナに起源を持つと思える。極東の花の霊と木の精霊のように、まだ西洋の読者によく知られていない次のチャイナの話は興味を惹くかも知れない。
 花への愛情の深さで有名な──日本の書物では唐の武三思ぶさんしと呼ばれる──チャイナの学者が居た。彼はとりわけ牡丹を好み、極めて巧みに根気よく栽培した。
 ある日、たいそう顔立ちの良い娘が武三思の家へ来て、奉公したいと懇願した。事情が有って卑賎な仕事を捜さざるを得ないが、文芸の教育を受けているから、そう言う訳で出来れば学者への奉公を望んでいると言うのだ。美貌に魅せられた武三思は、ろくに調べもせず住み込みで雇った。疑いようもなく優秀な奉公人である上に、実のところ、諸芸の特徴からどこかの王族の公邸か大貴族の宮殿で育てられたのだろうと武三思は薄々感じていた。礼儀の完璧な知識と最高位の婦人だけが教わる洗練された作法を示し、書道、絵画、あらゆる種類の詩歌を詠む驚くべき手腕を持ち合わせていた。やがて武三思は想いを寄せ、彼女を喜ばすことだけを考えるようになった。学者仲間や他の重要な来訪者が家に来ると、お客が待つ間に新しい奉公人をやってもてなし、会った者の皆を雅な魅力で驚かせた。
 ある日、武三思は高名な倫理学の師範である偉大な狄仁傑てきしんけつの訪問を受けたが、奉公人は主人の呼び掛けに応答しなかった。武三思は自分で捜しに行き、狄仁傑に会わせて褒めて貰おうと望んでいたが、何処にも見付からなかった。屋敷の中を無駄に捜した後で武三思が客間へ戻ろうとすると、不意に前の廊下伝いに音も無く滑る奉公人が目に入った。彼女を呼んで慌ただしく後を追った。その時彼女は半ば振り返り、背後の壁へ蜘蛛くものように張り付いて、彼の到着と同時に後退あとずさりして壁へ沈み込み、そうして──紙に描かれた絵のように平らな──色の付いた影の他に見える物は何も残っていなかった。しかしその影は唇と目を動かして、囁ささやくように話し掛けて言う──
「畏れ多くもお呼びだしに従わなかったご無礼をお許し下さい……私は人の身に在る者ではございません──牡丹の魂だけの存在でございます。あなたが牡丹をそれはもう慈しんで下さいましたから、お役に立つために人の姿をとることができたのです。でも今ここに狄仁傑が来ています──礼節の凄まじいお方です──この姿をそう長く続ける訳にはいかず……来た所へ帰らなくてはなりません。」
 それから壁に沈み込んで完全に消滅し、むき出しの壁土の他には何も残っていなかった。そして武三思が再び彼女と会うことは無かった。
 この話は日本で「開天遺事かいてんいじ」と呼ぶチャイナの書物に書かれている。
 

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