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昔むかし、越後の国の松山というところに、若い侍の夫婦が住んでいた。とうの昔のことなので、その名前は忘れられている。夫婦には幼い娘があった。
夫がかつて――おそらく越後藩主のお供をして江戸に行った。帰るときに、江戸の土産を買った――甘いお菓子と幼い娘のために人形を一つ(少なくとも作者はそう言っている)。その妻には、銀メッキの銅の鏡を一つ買った。若い母親にとって、この鏡はとても美しいものに思えた。というのは、それは松山にもたらされた最初の鏡であったからである。彼女は使い方を知らなかった。彼女が覗いたときに、誰かの微笑んだ顔がそこにあった。夫が妻に笑いかけながら、「なぜかって、それはお前の顔ではないか!
愚かなことを言うでない!」妻は羞はじて、それ以上は尋ねなかった。しかし、急いでそれを仕舞い込んで、不思議なことだと考えた。そして、彼女は何年もの間それを隠しておいた――元の話ではなぜかについてはまったく触れられていない。おそらくどの国でも、ささやかな贈物でさえ、神聖なものとされ、見せられないという単純な理由からであったろう。
しかし、病気で亡くなる間際、母親はこの鏡を娘に与えて、言った。「私に万一のことがあったら、朝な夕な、この鏡を覗いてご覧なさい。私に会えますからね。悲しむことはないのよ」ほどなく、母は息を引きとった。
それから、娘は、朝に夕に鏡を覗きこんだが、鏡の中の顔が自分自身の姿であるとは知らなかった。――それは、自分が似ている亡き母の面影だろうと思っていた。彼女は、来る日も来る日も、気持ちを込めて、あるいは、日本の昔話が優しく言うように母に会う心で、鏡の中の影に話しかけた。
ついに、父はこの事を知るに及んで、不思議に思い、娘に訳を尋ねた。娘はすべてを打ち明けた。と、ここで昔話の語り手は言う。「すると、いと哀れに思はれ、父の眼は涙で曇りぬ」