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赤い婚礼 6_小泉八云_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3338
 太郎の父は息子がお芳と結婚することになればいいと心から願っている。そして、それを慣例のやり方で運んだのだが、宮原家からははっきりとした返事がないことに驚いた。彼は純朴で気取らない男である。しかも、同情という性質の直感も持っていたので、常日頃から嫌っているぁ】マのかなり慇懃無礼な態度からすると、望むようにはことは運ばないのではないかと訝いぶかしんだ。そこで、太郎には自分の心配をありのままに伝えた方がいいだろうと思って話したところ、太郎は落胆のあまり熱を出してしまった。しかし、ぁ】マは計画の初めの段階では太郎を絶望させるような意図は持っていない。それで彼女は太郎の病気中には親切な見舞いの言葉の伝言とお芳の手紙を添えて送ったが、これは太郎の願望が再び蘇るという狙い通りの効果をもたらした。病気が直ると太郎は宮原家から丁寧に招かれて、お芳と店で話すことができた。けれど、太郎の父が先に訪ねてきたことにはちっとも触れられなかった。
 恋人たちは氏神様の境内でしばしば会う機会があった。お芳は継母の小さな赤ん坊をおぶっていることもあった。他の子守りたちや子どもたちとそれに若い母親たちの群れの中で、彼らは妙な噂を立てられることもなく、いくつか言葉を交わすことができた。
彼らの願いは一と月ばかり真剣には考慮されていない。そして、ぁ】マは冷やかし半分に太郎の父に到底受け入れられないような金銭上の相談を持ちかけた。彼女は被かぶっている仮面の端を少しつり上げて、本性を顕し始めている。というのは、岡崎はぁ】マが広げた網の中でさかんに藻掻いていたからである。その藻掻き様から見て、彼女は終わりがそう遠くないことを感じ取っている。お芳は自分の身辺で何が起こっているかなお知らなかったが、何かしら太郎の許へ嫁げないのではないかと案ぜられることがある。するとお芳は日一日と痩せ細り、顔色も次第に青白くなってきた。
 太郎はある朝、お芳と話す機会があるかもしれないと思って弟を連れて神社の境内に行った。お芳と会って、自分はなんだか不安だと彼女に心のうちを明かす。というのは、幼い頃自分の母が首に掛けてくれた小さな木のお札が布袋の中で割れているのに気がついたからだ。
「それは縁起が悪い知らせじゃないわ」お芳が答える。「それは、貴い神様があなたを護ってくれた徴しるしにすぎないのよ。村で病気があったとき、あなたは熱を出したけれど、もう元気になった。聖なる神様があなたをお守り下さったんだわ。だから割れたのよ。そう神主さんに言いなさい。もう一つ別のをくれるはずだから。」 彼らはとても不幸だった。しかし、別に誰に害を加えたということもなかったから、自ずと自分たちの前世や天道についての話になった。
 太郎は言った。「たぶん前世で僕たちは互いに憎しみ合っていたんだ。おそらく僕が君に親切じゃなかったか、君が僕にはそうだったからだよ。だから、これは僕たちへの罰なんだ。お坊さんはきっとそう言うさ。」
 お芳は少し冗談めかして答える。「私はそのとき男だったのよ。あなたは女で。私はあなたを好きで好きでたまらなかったんだけど、あなたは私にまったく気がなかった。
私はそれをよく覚えているわ。」
 太郎は、すまなさそうに微笑みながら「君は菩薩じゃないよ。」と返答した。「だから君は何にも覚えていることなんてできないんだよ。僕たちが覚えているのは菩薩道の十階のうちの最初の階においてだけらしいんだ。」「どうして分かるの? 私が菩薩じゃないって?」「君は女だからさ。女は菩薩にはなれないんだ。」「観音菩薩は女性ではないの?」
「そうだね。それはそうだ。でも菩薩はお経のほかは愛することができないんだよ。」「お釈迦様には奥さんや子どももいたでしょう? お釈迦様は妻や子を愛さなかったの?」
「そうじゃないけど。でもお釈迦様は妻や子を捨てなければならなかったんだって、知ってるよね。」
「それはとてもいけないことだわ。たといお釈迦様が行われたことだとしても。私、この話、全部は信じない。あなた、私を奥さんにしたら、私を捨てる?」 二人はこんな風に教えや道理を言い合っては議論し、ときおりは笑い合った。二人一緒にいられることが何よりも愉しかったのである。けれども、お芳は急にまじめになると話し始めた。
「ねえ、聞いてよ。私、昨夜ゆうべ夢を見たの。どこか分からない川とそれに海を見た。川の側に私が立っているような気がした。その川は海に注いでいる。私、とても怖かった。ほんとに怖かったんだけど、なぜだかは分からなかった。見てみると、川にも海にもぜんぜん水がないことに気がついたの。けれど、仏様の骨だけがあって、それが全部動いているの。ちょうど水のようによ。」
「そしたら、今度は私は家にいるような気がしたわ。そして、あなたが私に着物を作るようにとくれた綺麗な反物を仕立てて、私がそれを着てみたの。そしたら、なんだか不思議な気がしたの。だって、まずそれにはいろんな色の模様があったはずだと思っていたけど、いつの間にやら白無垢の着物になっていたの。そして、私はなんと死んだ人の着物のように左前にして着ていたんだわ。それから、私は親類の家をみんな訪ねて行って、お別れをするの。私、冥土に行きますとみんなに言ったわ。みんなはどうしたのと尋ねたけれど、答えられなかった。」
「それはいいよ」と太郎が言った。「死者の夢を見るのはきっと縁起がいいんだ。たぶん、それは僕たちが夫婦めおとになるという徴だよ。」 こんどは乙女は答えなかったし、微笑みもしなかった。
 太郎はしばらく黙っていたが、それから付け加えた。「もし、君がよい夢じゃないと思うんだったら、よし、庭の南天の木にそれを囁いておこう。そしたら、それは真実とはならないからね。」
 その日の夕刻、太郎の父は宮原のお芳が岡崎弥一郎の嫁になるという知らせを受けた。
 

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