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赤い婚礼 7_小泉八云_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3337
 ぁ】マは実に頭のよい女である。大したミスもしなかった。彼女は、自分より劣っている者たちを搾取して楽々と人生に成功していける小利口な人間である。彼女の先祖代々の農民としてのあらゆる経験は、忍耐心、ずる賢さ、巧みな知覚、それに機敏な先見の明や吝嗇ともいえる倹約精神などに見られるが、彼女の無学文盲な頭脳の中に完璧な機械として凝縮されているのである。この機械は、それを生み出した環境において、また、それがうまく捌くことのできる特定の人間――つまり農民という種類――の材料に対してであれば、申し分なく働くのである。だが、ぁ】マがよく理解できない別の種類の人たちが存在しているのである。なぜというに、ぁ】マにはそれを解明できるような先祖代々の経験を少しも持ち合わせていなかったからである。彼女はサムライと平民とは別の種族であるという伝統的な考えをけっして信じようとはしなかった。法と慣習とが確立したような差異を除けば、この士族階級と農民階級との間には何らの区別も存在しないと考えていたし、またこれらそのものが悪であると思っている。彼女の考えによれば、法と慣習のために旧士族階級のあらゆる人々は多かれ少なかれ無力や愚かな者にされる結果となったのである。こうして密かに士族階級を軽蔑していた。彼らが一所懸命に働かないことや商売のやり方についてまったく無知であったために、士族が富裕層から貧困層へと没落するのを見てきた。新政府が華士族らに交付した金禄公債証書(一八七六年)の金が華士族の手からもっとも下層な商人階級であるずる賢い投機家連中の手中に落ちるのを見た。ぁ】マは弱さを軽蔑した。無能さを馬鹿にした。かつて家老が通るたびに草履を脱ぎ捨て、地面に頭をこすりつけねばならなかった者たちから、今度は援助を乞わなければならなくなった元家老よりも、ごくありふれた野菜売りの方がより優れた存在だとぁ】マは評価している。お芳が武家出の母親を持っていたことも別に有利なものとは考えていない。ぁ】マはお芳の高貴さを武家出の母親の出自に由来するものと見たが、その出自こそが不運であると思っている。彼女は、お芳の性格の中に上位の身分ではない農民の眼から読み込みうるすべてのものを読み込んでいた。なかでも、この娘につらく当たっても何も得られないことである。お芳に見られる性質は彼女が嫌いなものではない。しかし、お芳にはぁ】マが決してできない別の性質――つまり道徳的な悪に対する深くまたよく配慮された感覚、きっぱりとした自尊心それに肉体的苦痛に打ち勝つことのできる肝の据わった意思力などがある。このようにして、岡崎に嫁ぐよう告げられると、お芳がきっと抵抗するに違いないと思っていたぁ】マは騙された格好であった。彼女は計算違いをしたのである。
 最初、その少女は死んだかのように蒼白になった。しかし、しばらくするとお芳は顔を赤らめ、微笑んでお辞儀をし、また、孝行娘らしく改まった言葉で万事両親のご意思に従い申しますと返答したので、宮原の両親も思いもよらず驚いた。彼女の態度には内心不満そうな様子も見られない。ぁ】マは非常に喜んだのでお芳に打ち明けた。縁談交渉の中でのいくつかの笑い話や岡崎がどんなに多くの犠牲を払うことになったかについて話して聞かせた。さらに、本人の同意なしに老人の元へ嫁ぐことに決まったうら若い婚約者に掛けられるようなありふれた慰めの言葉に加えて、ぁ】マは岡崎を思い通りに操る方法についてもお芳にいくつかの貴重なアドバイスもした。太郎の名前はついぞ一度も出なかった。継母の忠告に対して、お芳は優雅に手をつき平伏してお辞儀をして、従順に礼を述べた。それは確かに貴重なアドバイスである。ぁ】マのような先生に十分に教えられた優秀な農家の娘ならば、岡崎との生活をうまくやり遂げていくことはできるだろう。けれども、お芳は農家の血を半分だけ引いているにすぎない。自分の将来がどんなものであるか宣告された直後に、お芳が突然に最初は蒼白となり、その後に紅潮したのは、ぁ】マがその性質を感じ取ることができなかった二つの感情によって引き起こされているのである。両方とも、それはぁ】マの計算高い経験においてなされたものよりもはるかに複雑で素早い思考を示していた。
 最初は恐怖によるショックのためである。それは、継母にまったく道徳的感覚のなさや逆らってもほとんど望みがないこと、ただ単に必要でもない金銭的な欲に駆られた動機のためにぞっとするような老人に実質自分を売り渡すこと、そしてこの取引の酷さと恥知らずさを心底から感じ取ったことに伴うものだった。しかし、それと同時に、お芳は、最悪なものに立ち向かう勇気と強さ、それに狡猾さに対抗する英知が必要なことをすっかり認識したのだった。そのときお芳は微笑みを浮かべた。微笑みながら彼女の若い意思は鉄のようになった。それは揺るぎない鋼鉄のごとき堅固な意思である。自分がただちに何をなすべきかを正確に悟った――彼女に流れるサムライの血がそれを教えたのである。他方で時を待って機会を得ようと考えた。そして、お芳は勝利は自分にあると強く実感していたので、思わず声に出して笑いそうになるのをこらえなければならなかった。ぁ】マの方はお芳の瞳のこの輝きを見て、お芳が満足した感情を示したのだろうとすっかり信じ込まされたのである。金持ちとの結婚によって実際いろいろ利益になることににわかに気づいたからだろうと思ったのであった。
 今日は九月一五日である。そして婚礼の日取りは一〇月六日と定まった。それから三日の後、ぁ】マは夜明け前に起きたが、すでに継娘が夜中に居なくなっていることに気づいた。内田太郎も前日の午後以来父が見かけることはなかった。その後、二?三時間ばかり経って二人からの手紙が届いた。
 

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11/24 14:08