述懐百首歌よみ侍りけるに、若菜
15 沢に生ふる若菜ならねどいたづらに年をつむにも袖は濡れけり\
【通釈】
15 沢辺に生える若菜を摘むのではないが、なすこともなく年を積む(年を重ねる)につけ、袖は沢水ならぬ涙で濡れるなあ。本歌「春の野の若菜ならねど君がため年の数をもつまむとぞ思ふ」(拾遺・賀・伊勢)。○述懐百首歌 保延六年(一一四〇)頃詠まれた百首。「述懐」はここでは愚痴、不遇をかこつ意。○若菜 ここでは「沢に生ふる」というので、芹や「ゑぐ」(クログワイ)などをイメージするが、とくに「芹を摘む」というのは、俊頼髄脳などに語る故事から、徒労をさす成句のように用いられるので、ここでも芹などを考えることがふさわしい。○四・五句 「つむ」は「若菜」の縁語「摘む」と「積む」の掛詞。「濡れ」は「沢」の縁語。