仙酔島(せんすいとう) (広島県福山市)
酒を飲みすぎて島民に見つかってしまった間抜けな仙人
福山市南東部の鞆とも港から瀬戸内海に向けて広がる「鞆の浦」は、その景色の美しさで知られている。
瀬戸内海が古代から重要な交通路だったことを物語る伝承が各地に残るが、そのなかでも鞆の浦は抜きん出た数の伝説をもつ。
鞆港が交通の要衝だったためということもあるが、景勝地としての名声が響いていて、この地にまつわる伝説を生み出したようだ。
鞆の美しい景観に彩りを添えているのが、鞆港から渡し舟で五分という近さの仙酔島で、この島にも伝説がある。
鞆の浦に浮かぶ面積一平方キロ足らずの小島には、かつて仙人が住んでいたという。
あるとき彼が酒を飲みすぎ、酔っ払ったあげく人間に見つかってしまう。このエピソードから、島は「仙酔島」と呼ばれるようになったというのだ。
仙人が酒を飲みながら景色を眺めて酔っ払ったのだとしたら、酔ったのは酒ではなく景色にだったのかもしれない。
宮みや城ぎ道みち雄お作曲の箏そう曲『春の海』はこの地でつくられたというが、鞆の浦の春のさざなみの、優雅でゆったりした様を容易に想像できよう。
なお、春はまた鞆名物のタイ漁の季節でもある。
名物桜鯛をつまみに酒を飲めば、仙人でなくても酔っ払うに違いない。