足摺岬(あしずりみさき) (高知県土佐清水市)
地名表記は、作家・田宮虎彦の小説が起源
高知県の南西端、足摺半島の先端の岬である「足摺岬」。土佐清水市に属し、蹉 と書いて「あしずり」と読んだり、あるいは、そのまま「さだ」と読んだり、さらに「足摺崎」などいくつかの表記もあったようだが、一九四九(昭和二十四)年の田宮虎彦の同名小説によって、「足摺岬」という表記が一般化したといわれている。
足摺岬の地名の由来は、鎌倉中期に書かれた『とはずがたり』のなかに出典がある。
そこには「天狗が蹉 して逃げた」と書かれていて、蹉 は「足を摺る」という意味なのだが、天狗には修験者という意味があるらしく、修験者が足を摺って逃げていったのだろうか、あるいは、蹉 という字が読みにくかったためであろうか。
いつのまにか、同じ言葉の意味をそのまま表記した「足摺岬」のほうがとり入れられてしまったようだ。
同じ出典ながら、もう一説によると、「心憂く悲しくて、泣く泣く足摺をしたりけるにより、足摺岬といふなり」という記述があるのだが、作者は後ご深ふか草くさ院に仕え、〝女西行〟と呼ばれた女性。西国への旅の途中、宮島参詣ののちに足摺岬に向かう船中で聞いた話として、この一説が出てくる。
作者が実際に足摺岬へ行ったかどうかは定かでないが、その当時、すでにこの地名の起源説話が一般にも信じられていたことがわかる。