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日本むかしばなし集99
日期:2020-01-19 22:32  点击:526
鳥をのんだおじいさん

むかし、あるところにおじいさんがふたりおりました。ひとりはよいおじいさんで、ひとりは悪いおじいさんでした。よいおじいさんはそれは働き者で、みんなにすかれ、ほめられていました。きょうもくわをかついで、山の畑へ畑を打ちにでかけました。ひとしごとをして、
「やれ、やれ、つかれました。」
と、木の切り株《かぶ》に腰《こし》をおろし、スッパ、スッパとたばこをすいました。と、そのとき、どこからか、
「アヤちゅうちゅう、コヤちゅうちゅう、
錦《にしき》さらさら五葉《よう》の松《まつ》、
食べてもうせば、びびらびーん。」
という声が聞こえてきました。なんのことだかわかりませんが、しかしそれは、鳥の鳴《な》き声だったのです。だから、わけはわからなくても、音楽のように美しく、聞いていても、うっとりするほどでした。それでおじいさん、
「どんな鳥かしらないが、ハンの木にとまって鳴かないかな。」
と、思いました。すると、その鳥はハタハタと飛んできて、ハンの木の枝《えだ》にとまって、
「アヤちゅうちゅうちゅう。」
と、やりはじめました。おじいさんは感心しましたが、ハンの木の枝は遠くて、その鳥の姿《すがた》が見えません。それで、ちょうど目の前に立てていたくわの柄《え》をながめながら、
「ここへきて、ここにとまって鳴いてくれるといいんだがな——」
そんなことを思いました。と、もう鳥はハタハタ飛んできて、そのくわの柄にとまって、
「アヤちゅうちゅうちゅう。」
と、鳴きはじめました。おじいさんは、もう、すっかり感心して、どこから、こんなよい声がでるんだろうな。そんなことを思いながら、美しい、小さな鳥を、右から左から、首をかたむけてながめました。そのすえ、おじいさんは、いたずら気を出して、
「こんどは、おれのこの舌《した》の先にとまって、アヤちゅうちゅうと、やってみせないかなあ。」
そういって、口先にちょっと、舌をのぞかせました。すると、もう鳥はその舌先にとまって、
「アヤちゅうちゅう。」
と、うたいだしました。ところが、そのときです。おじいさんは舌を出しているのにくたびれて、つい、大口をあけて、舌をひっこめてしまいました。と、そのひょうしに、なんと鳥が、おじいさんののどをくぐって、おなかの中へはいっていってしまいました。
「ありゃ、りゃ、これはすまんことをしましたわい。」
おじいさんはあわてて、鳥を外へはきだそうとしました。腹《はら》をもんだり、腹をたたいたりするのですが、鳥は出そうにありません。出そうで出ないどころか、中から鳥のよぶ声がしております。
「おじいさん、おじいさん。」
鳥が、そういっております。
「なんだ。なんだ。」
と、おじいさんがいいますと、
「おじいさん、心配はいらないです。」
鳥は、そういうのです。そして、
「これからすぐ街道《かいどう》へお行きなさい。いったら、そこのサクラの木にお登りなさい。まもなく殿《との》さまの行列《ぎようれつ》がやってくるのです。来たら、腹をポンポン、二つおたたきなさい。わたしが、アヤちゅうちゅうとうたってあげます。殿さまが、おまえはだれだというでしょう。そのときは、わたしは日本一の歌うたいと、おいいなさい。きっと、ごほうびをたくさんくださるでしょう。」
こうもいうのです。おじいさんは、
「フーン、なるほど、そうかあ。」
そういって、聞いておりましたが、
「じゃ、これからすぐ行くぞ。」
と、街道さして出かけました。サクラの木はちゃーんと立っていました。そこでおじいさんはそれに登りました。すぐ、
「下に——い。下に——い。」
と、殿さまの行列がやってきました。おじいさんは、ここぞと、腹をポンポン、二度たたきました。
「アヤちゅうちゅう、コヤちゅうちゅう、
錦さらさら五葉の松、
食べてもうせば、びびらびーん。」
鳥が一生けんめい、おじいさんの腹の中で声はりあげてうたいました。殿さまは、これを聞いて、思わず、
「ほほう、なに鳥か、いい声でうたっている。」
そういいました。そして、その声の方をみあげました。ところが、そこには鳥はいないで、きたないおじいさんが木の上におりました。
「これ、おまえはいったいなにものだ。」
殿さまがいいました。
「はい、わたしは日本一の歌うたいです。」
おじいさんがいいました。
「じゃ、もうひとつうたってみろ。」
殿さまがいいました。おじいさんはそこで、腹をポンポン、二つたたいて、鳥へあいずをやりました。
「アヤちゅうちゅう。」
鳥はうたいだしました。
「なるほど、これはいい声だ。おもしろい歌だ。」
殿さまはそういって、家来《けらい》につづらを二つ持ってこさせました。そして、
「これは、歌のほうびだ。いい方をとりなさい。あすもここを通るから、また、歌を聞かせてくれ。」
殿さまは、そういいました。
「ありがとうございます。それでは、わたしは、年よりで、重いものは持てません。軽いほうのつづらをくださいませ。」
おじいさんは、軽いつづらをもらいました。しかし、あとで、家へ帰って、おばあさんといっしょに、それを開けてみたら、中は、金銀《きんぎん》サンゴ、あや、錦。宝物《たからもの》でいっぱいでした。ふたりはそれを見て、喜ぶやら、びっくりするやら、
「あれい、まあ。」
しばらくはそういっておるばかりでした。ところが、そこへおとなりの、悪いおじいさんがやってきました。悪いおじいさんは、その宝物を見ると、
「おまえさん、それはぬすんで来たのか、拾って来たのか。」
そんな、いじの悪いことをいいました。よいおじいさんは、
「いやいや、これはこうこう、かくかくのことで——」
と、鳥をのんだ話からして聞かせました。これを聞くと、悪いおじいさん、
「よし、それなら、おれもその鳥をのみこんで、一つうたってみよう。」
そういって、そのあくる日のこと、山の畑へくわをかついで出かけました。こっちはなまけ者のおじいさんですから、畑へ来たって、働こうとはしません。草ぼうぼうの畑の中の木の切り株に腰をかけ、前にくわをおいて、鳥の来るのを待っていました。すると、
「ふっくらう、きんたまき。」
へんな鳴きかたをする鳥がやって来ました。おじいさんは、しかし、そうは思いません。
「ウン、こりゃおもしろい。」
そういって、よいおじいさんがやったように、まず、その鳥をハンの木の枝にとまらせました。それからくわの柄にこさせました。そして、しまいに自分の舌先にとまらせ、そこで、パクッとのんでしまいました。鳥をのんでしまうと、腹の中でまだ鳥がなんともいわないのに、もう街道へ出かけ、そこのサクラの木に登ってしまいました。
「下に——い。下に——い。」
きのうのように、すぐ殿さまの行列がやってきました。
「そら来た。」
と、悪いおじいさんは問われもしないのに、
「日本一の歌うたいでござる。」
と、自分から名のって、腹を二つ、ポンポンとたたきました。すると、
「ふっくらう、きんたまき。」
腹の鳥が鳴きました。殿さまはこれを聞いて、きのうのおじいさんとばかり思っていたものですから、
「へんな鳥の声だなあ。」
と、首をかしげました。それで、
「もう一度やってみろ。」
と、いいました。悪いおじいさんは、ここぞとばかり、力を入れて、腹をポンポン、ポンポン、やたらにたたきました。中の鳥はこれでは、鳴きだすひまがないのか、
「フフ、フフ、フフ。」
というばかりです。殿さまは、そこで、
「早くうたわんか。早くうたえい。」
と、さいそくしました。悪いおじいさんは、これではいかんと、こんどは両手で腹をポポポン、ポポポンとたたきました。しかし、それでつかまっていた木の枝をはなしたもので、ドサ——ンと、下に落ちてきました。
殿さまはこれを見て、どなりました。
「これはにせものだ。うそつきの日本一だ。ひっぱたいて、追っぱらえ。」
たいへんなことになりました。家来がおじいさんをつかまえて、棒《ぼう》でたたいたのです。おじいさんは木から落ちて、手や足をすりむいてるうえ、殿さまの家来にたたかれて、顔や頭から血が出ました。
そうして家へ帰っていくと、いま、宝物をもらってくると、二階で待っていたおばあさんが、これを見てびっくりして、はしご段からころがり落ちました。欲《よく》っぱりをしてはならないというお話です。めでたし、めでたし。

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