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恶灵(8)

时间: 2021-08-19    进入日语论坛
核心提示: 剃刀と想像される殺人兇器は土蔵の中は勿論(もちろん)、邸内のどこにも見出すことは出来なかった。尤(もっと)も姉崎夫人の化粧
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 剃刀と想像される殺人兇器は土蔵の中は勿論(もちろん)、邸内のどこにも見出すことは出来なかった。(もっと)も姉崎夫人の化粧台と書生の机の抽斗(ひきだし)とから剃刀が発見されはしたけれど、それは両方とも殺人の兇器としては使用出来(そう)もない安全剃刀であって、替刃にも別段の異状を認めることは出来なかった。つまり兇器は犯人自身のものであって、彼はそれを現場に遺棄して立去る程愚かでなかったのに違いない。犯人の足跡と指紋も全く見出すことが出来なかった。庭園の土は(やわら)かだったけれど、そこには庭下駄(にわげた)以外の跡はなく、玄関前には敷石が敷きつめてあった。土蔵の(いた)()には薄く埃が積っていて、それがひどく掻き乱された跡は見えたが、明瞭な足跡は無かった。指紋の方は、犯行現場の道具類の滑かな(おもて)には家内の人々の指紋が(わず)かに残っているばかりだったし、又、僕が最初異状を発見した蔵の錠前の鉄板(てついた)の表面にも、これこそはと意気込んで鑑識課へ廻されたが、何の跡も残っていないことが分った。それでは犯人は用心深く手袋をはめていたのであろうか。だが、若しそうだとすると、その手袋は動脈から吹き出した血潮の為にべトべトに濡れていた筈ではないか。それについて僕はふとこんなことを空想した。犯人は兇行に取りかかる前に手袋を脱ぎ、兇行を終って血のりを拭きとったあとで又それをはめたのだと。更らに進んで、彼が脱いだものはただ手袋丈けではなかったのではないかと。これは非常に奇怪な空想かも知れない。そして君は多分、僕の例の癖が始まったと云うかも知れない。だが、被害者の夫人が全裸体であったこと、致命傷以外の傷と血の流れ方が実に異様であったことなどから、僕には何となくそんな風に思われたのだ。実を云うと、今の所僕のこの空想には殆ど賛成者がないのだが、僕自身はまだそれを捨て兼ねている。無駄事の様だけれど、この妙な考えを(しる)して君に覚えて置いて貰いたいと思うのだ。僕は今犯人が兇行の時の返り血を拭き取ったと書いたが、これ丈けは空想ではなかった。と云うのは、先にもちょっと記した通り兇行現場の土蔵の二階には、死体から遠く離れた隅の方に、姉崎未亡人の不断着が脱ぎ捨ててあったが、それは袖畳(そでだた)みにしたのではなく、ごく乱暴に丸めたもので、僕が一目見てこいつは曽恵子さん自身が丸めたものではないなと考えた通り、(しら)べて見ると、その縞銘仙(しまめいせん)単衣(ひとえ)ものの中には、クシャクシャになった夫人常用の絞羽二重(しぼりはぶたえ)長襦袢(ながじゅばん)が包みこんであって、それに血を拭き取った跡が(おびただ)しく附着していたからだ。若しやそこに指紋が残されているのではないかと思われたが、注意深い犯人にそんな手抜かりはなかった。で、長襦袢の血痕は、人々を一瞬間ハッとさせたばかりで、別に犯人捜索の直接の手掛りとはならなかったが、併しそうして丸めた着物をとりのけた事が、実に奇妙な証拠品らしいものを発見する機縁となった。
 同じ板の間の隅っこの、今までは着物の為に隠れていた部分に、小さく丸めた紙切れが落ちていたのだ。その紙切れはこの殺人事件での証拠らしい証拠品の唯一のものであって、その筋の人達もこれには非常に興味を持った様に思われるし、僕自身にも、何となくこれが後に重大な意味を持ってくるのではないかという予感があるので、その紙切れについてなるべく詳しく書いて置こうと思う。最初それを発見した所轄警察の司法主任が、小さく丸められたままの紙切れを注意深く観察して、これは以前からそこに()ったのではなくて、犯罪の際に(おと)されたものに違いないと注意した。なぜかと云うと、その部屋は床の上にも、並んでいる道具類の上にも、目に見える程(ほこり)が積もっていたのに、丸められた紙切れの皺の中にはどこにも全く埃がなかったからだ。更らにそれを拡げて見ると、感心な司法主任の観察が間違っていなかったことが一層はっきりした。というのは、紙切には妙な符号みたいなものが記してあったのだが、それが非常に不可解な秘密めいた性質を持っていて、殺人事件に何かの関係があるらしく思われたからだ。(ついで)にあとになって分ったことをつけ加えて置くならば、姉崎家の女中を始め書生や子供の中学生などに(ただ)した結果を綜合するのに、その紙切れは未亡人が持っていたのではなくて、どうかして犯人が落して行ったものとしか考えられなかった。つまり、これこそ、(はなはだ)しく難解な材料ではあったけれど、殺人者の素情(すじょう)を探り出す唯一の手掛りに違いなかった。その紙切れは長さも幅も厚味も丁度官製ハガキ程の正確な長方形で、紙質は上質紙と呼ばれているものであって、その中央に、二本の(つの)の生えたいびつな方形の枠の上に(ななめ)に一本の棒を横たえた図形が、濃い墨汁(ぼくじゅう)で肉太に描いてあるのだ。僕はその形をよく覚え込んでいるので、参考までに次に小さく模写して置く。君はこの異様な符号を見て何を聯想するであろうか。僕は暗号でも解く気になって、色々に考えて見たが、何だか、アアあれだったのかと()ぐ分り相でいて、その秘密が今にも意識の表面に浮かび上り相でいて、だがどうしても分らない。綿貫氏に聞くと、警察の方でもまだこの謎が解けないでいるということだ。若し君がこんな図形をどこかで見たことがあるか、或は図形の意味を解くことが出来たら是非知らせてほしいと思う。
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