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恶灵物语(5)

时间: 2021-08-26    进入日语论坛
核心提示: 土色の男のからだであった。目が血ばしって赤く、唇(くちびる)がまっ青(さお)だった。頸(くび)から胸にかけて、黒い血が凝固し
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 土色の男のからだであった。目が血ばしって赤く、(くちびる)がまっ(さお)だった。(くび)から胸にかけて、黒い血が凝固していた。頭にも胸にも(もも)にもほんとうの毛が植えてあった。
「これもほんとうの人間から型を取ったのですか」
 蘭堂は声が震えないように用心しなければならなかった。
「そうです。生きた人間からです。まさか死骸からではありませんよ」
 伴天連爺さんは、そういってから、フフと笑った。
 その次には、皮膚病の半身像や、変てこな局部像が、いろいろ並んでいた。並んでいるというよりは、ころがっていた。ひどく生き生きとして、今にも動き出しそうなものもあった。
「このつぎに、面白いものがあります。蝋燭を消しますよ。でないと、感じが出ないのです」
 フッと火が消えて、まっ黒なビロードに包まれた感じであった。突然めくらになったように、まったく何も見えなかった。
「さア、両手を出して、さわってごらんなさい。目で見てはちっとも美しくないけれども、手でさわれば、たまらない美しさです。わたしが考え出した類のない美術品です。ですから、夜をえらんだのですよ。先生にわざと(よる)来ていただいたのです。目で見ないで、手だけで見るというのには、昼間はぐあいがわるいですからね。これは手で見るのですよ。つまり触覚の美術です」
 蘭堂はいわれるままに、オズオズとそれにさわって見た。冷たいなめらかな肌であった。
「もっと手をのばして、全体をなでまわしてごらんなさい」
 だんだん手をのばして行くと、それは人間のからだに似たものであることがわかった。しかし、普通の人間ではない。手が何本もある。足が何本もある。肉体の山と谷が無数にある。
 はじめは薄気味がわるかった。不快でさえあった。だが、なでまわしているうちに、神経の底から妙な感じが湧き上がって来た。今まで一度も経験しなかった不思議な快感であった。そこには、想像し得るあらゆる美しい曲線が、微妙に組合わされていた。スベスベした、なだらかな運動感があった。手が自然にすべって行く、そのすべり方に、異様な快感があった。それは触覚だけでなくて運動感覚にも訴える美しさであった。
 老人は暗闇の中で、息の()も立てないで、小説家の感動を感じ取ろうとしていた。蘭堂の両の手が、はじめはゆるゆると、やがて、徐々(じょじょ)に速度を増して、ついには恐ろしい早さで、その物体の上を、()いまわった。恍惚(こうこつ)として、時のたつのも忘れて、這いまわった。
「すばらしい。これはすばらしいですよ。ぼくはこんな美しいものに初めてさわりました。これは何という微妙な曲線でしょう。いったい、どんな法則から割り出した曲線でしょう。……」
 闇の中から、老人のフフという笑い声がした。
「さっきから、もう三十分もたちましたよ。ずいぶんお気に入ったものですね。さア、つぎに移りましょう。もっとお見せするものがあるのです」

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