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恐怖王-可怕的婚礼(2)

时间: 2021-08-26    进入日语论坛
核心提示:次は口だ。口紅ばかりいくら赤くしても、口辺(こうへん)の筋肉が力なくだれてしまって生気がない。そこで、唇(くちびる)の両端(
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次は口だ。口紅ばかりいくら赤くしても、口辺(こうへん)の筋肉が力なくだれてしまって生気がない。そこで、(くちびる)両端(りょうはし)を指でギュッと上に押し上げたまま、二十分程も、じっと辛抱していると、(すで)強直(きょうちょく)の起り始めた筋肉は、そのまま形を変えて、如何にも嬉しげな笑いの表情となった。
 死骸がにこやかに笑い出したのだ。
「アア、あでやかあでやか、これで申分(もうしぶん)はない。さて、今度は頭の番だ」
 彼は娘の死体を抱き起して、大トランクに(もた)せかけ、手際よく髪を()い始めた。髪の道具もちゃんとトランクの中に用意してあったのだ。
 仮令(たとえ)美術家にもせよ、髪まで結うとは、驚いた男だ。しかも、一時間程で結い上げたのは、専門家でも骨の折れる、立派やかな高島田(たかしまだ)であった。
 顔を作り、髪を上げると、今度はトランクに用意して置いた婚礼衣裳の着附けである。扱い(にく)い死骸を相手に、一人では随分(ずいぶん)骨が折れたが、派手な紋服(もんぷく)金襴(きんらん)の帯もシャンと結べた。
 それから、やっぱり用意してあった(つい)掛物(かけもの)(とこ)()にかけ、花瓶を置き、二枚の座蒲団(ざぶとん)を正面に並べ、その一つに、盛装の花嫁をチンと据えた。倒れぬ様に花嫁御のお尻に、トランクの支柱棒(つっかいぼう)だ。
 すっかり準備が整う頃には、白々と夜が明け放れた。
 それから数時間の後、午前十時という約束かっきりに、例のゴリラが意気揚々(いきようよう)と乗り込んで来た。
「どうですい、この花婿姿は」
 彼は座敷に通ると、先ず我が姿を見せびらかした。
 紋附(もんつき)仙台平(せんだいひら)(はかま)、純白の羽織の紐が目立つ。
「すてきだ。一分(いちぶ)(すき)もない花婿様だ。ところで、写真屋の方は?」
「もう来る時分です。やっぱり十時と云って置きましたから。……」
 と云いさして、紋附袴のゴリラはギョッとした様に言葉を(きっ)た。
「オイオイ、何をそんなにびっくりしているんだね」
「アレ」ゴリラはどもりながら、「アレが例の仏様ですかい。アレが」
 彼が驚くのも無理ではない。床の間を背にして、シャンと坐っている花嫁御は、どう見ても死人とは思われぬ。唇をキュッとゆがめてニッコリ笑っている顔の愛らしさ。今にも両手をついて、目の(ふち)をポッと赤くして、小笠原流(おがさわらりゅう)のご挨拶(あいさつ)でも始め(そう)に見えるのだ。

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