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恐怖王-怪汽车(1)

时间: 2021-08-26    进入日语论坛
核心提示:怪自動車 お話変って、死美人の婚礼が行われたその同じ日の夜、麹町区内のとある大通りを、一台の大型自動車が、大小四個のヘッ
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怪自動車


 お話変って、死美人の婚礼が行われたその同じ日の夜、麹町区内のとある大通りを、一台の大型自動車が、大小四個のヘッドライトもいかめしく、すれ違うボロタクシーを尻目にかけて、豊かに走っていた。
 運転手も助手も、汗のにじまぬ背広を着て、髪も(ひげ)綺麗(きれい)に手入れが届いている。せかず(あわ)てず、大様(おおよう)に構えていて、しかもいつの間にか、一台二台と(ほか)の車を抜いて行く。運転の手際(てぎわ)まで何となく垢抜(あかぬ)けがして見えるのだ。
 車内に納まっている中老紳士は、千万長者と聞えた、布引(ぬのびき)銀行の取締役頭取(とうどり)、布引庄兵衛(しょうべえ)氏だ。この人にしてこの自動車、この運転手、さもあるべきことだ。
 でっぷり()えた赤ら顔に、白髪(しらが)まじりのチョビ髭、厚い唇に葉巻煙草、形()けはいつもの庄兵衛氏である。だが、よく見ると、どこやら気が抜けている。日頃の張り切った力がない。
 彼は物思いに(ふけ)っていたのだ。事業上の事ではない。銀行家だって、利子のことばかり考えているとは()まらぬ。もっと人間らしい悲しみに、我を忘れていたのだ。
 悲しみとは外ではない。布引庄兵衛氏は、つい数日(ぜん)、最愛の一人娘の照子(てるこ)を失って、昨日葬儀をすませたばかりなのだ。ふとした(かぜ)が元で、急性肺炎を起し、手をつくした看病も甲斐(かい)なく、淡雪(あわゆき)の消える様に果敢(はか)なくなってしまった。
 もうちゃんと、婿君(むこぎみ)も極まっていた。布引銀行の社員で、眉目秀麗(びもくしゅうれい)才智縦横(さいちじゅうおう)の好青年、鳥井純一(とりいじゅんいち)というのが頭取のお眼鏡に(かな)い、相互の耳にも入れて、もう吉日を選ぶばかりになっていた。
 照子は、(やまい)あらたまるや、已に死を悟ったものか、父母にせがんで、鳥井純一を呼び寄せて(もら)い、少しも(そば)を離さなかった。そして、もう息を引取るという間際(まぎわ)に、鳥井の手を握って、
「お父さまも、お母さまも、どうぞ許して下さい」
 と()びながら、鳥井に最後の接吻を求めた。
 鳥井は、ポロポロと涙をこぼして、照子のもう冷たくなり始めた額に、清い接吻を与えた。
 庄兵衛氏は、その光景が、今でも(まぼろし)の様に目先にちらついて仕方がなかった。
「アア、可哀相に、どんなにか死にともなかったであろう。(もっと)もだ。尤もだ」

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