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十二国記393
日期:2020-08-31 11:56  点击:273
「——おねえさん」
 鈴《すず》は宿を物色《ぶっしょく》していて、突然背後から声をかけられた。
 三騅《さんすい》がいるから厩舎《うまや》のある宿でなければならない。騎獣《きじゅう》を盗むことは大罪だが、高価なゆえに盗人は後をたたない。そう、騎商の者に教えられた。あまり高くはなさそうで厩舎のある宿が確かあったはずだと、拓峰《たくほう》の街の、かつて泊まっていた界隈《かいわい》を歩いているところだった。
 振り返ると、以前墓地で会った少年が雑踏《ざっとう》の中にいた。
「あなた——」
 彼は閉門前の人波をすりぬけ、鈴の側に駆け寄ってくる。
「戻ってきたの? なぜ?」
 鈴は首をかしげた。
「なぜって?」
「どこかに行っていたでしょう。宿を引き払ったようだから、拓峰を出たんだと思ったのに」
 確か、夕暉《せっき》といったはずだ、と鈴は思い起こした。
「どうして宿を知ってるの」
 夕暉と会った日、鈴はべつだん夕暉に宿まで送ってもらったわけではない。広途《おおどおり》で別れてそれきりだった。
 ああ、と夕暉は少しきまり悪げに首をすくめる。
「ごめんね。おねえさんの後をつけたから」
「どうして」
「気になったから。——おねえさんが昇紘《しょうこう》になにかするんじゃないかと思って」
 鈴はぎくりとした。
「……まさか」
「だったら、いいけど。——騎獣《きじゅう》? 買ってきたの?」
「そう。馬車の旅に飽《あ》きたから。もう乗せていかなきゃいけない病人もいないし」
 鈴は苦く笑う。そう、と夕暉は目を伏せた。
「——ちょうどいいわ。あなた、厩舎《うまや》のある安い宿を知らない?」
 もう鈴の懐《ふところ》は寂《さび》しい。厩舎のある宿ならどこでも、というわけにはいかなかった。
 夕暉はぱっと目を上げる。
「うち、宿だよ。汚《きたな》いけど。厩舎はないけど、裏にこの騎獣ぐらいならおける。——大丈夫、うちにあるものを盗《と》っていくような奴はいないから」
 夕暉は鈴の手を引く。
「泊まっていってよ。宿代はいいから」
 

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