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虞美人草 十 (8)
日期:2021-04-10 23:59  点击:254
「何がって、この松さ。こりゃたしか阿父(おとっさん)苔盛園(たいせいえん)で二十五円で売りつけられたんだろう」
「ええ。大事な盆栽よ。転覆(ひっくりかえし)でもしようもんなら大変よ」
「ハハハハこれを二十五円で売りつけられる阿爺(おとっさん)も阿爺だが、それをまた二階まで、えっちらおっちら(かつ)ぎ上げる御前も御前だね。やっぱりいくら年が違っても親子は爭われないものだ」
「ホホホホ兄さんはよっぽど馬鹿ね」
「馬鹿だって糸公と同じくらいな程度だあね。兄弟だもの」
「おやいやだ。そりゃ(わたし)は無論馬鹿ですわ。馬鹿ですけれども、兄さんも馬鹿よ」
「馬鹿よか。だから御互に馬鹿よで好いじゃあないか」
「だって証拠があるんですもの」
「馬鹿の証拠がかい」
「ええ」
「そりゃ糸公の大発明だ。どんな証拠があるんだね」
「その盆栽はね」
「うん、この盆栽は」
「その盆栽はね――知らなくって」
「知らないとは」
「私大嫌よ」
「へええ、今度(こんだ)こっちの大発明だ。ハハハハ。(きらい)なものを、なんでまた持って来たんだ。重いだろうに」
阿父(おとう)まが御自分で持っていらしったのよ」
「何だって」
「日が(あた)って二階の方が松のために好いって」
阿爺(おやじ)も親切だな。そうかそれで兄さんが馬鹿になっちまったんだね。阿爺親切にして子は馬鹿になりか」
「なに、そりゃ、ちょっと。発句(ほっく)?」
「まあ発句に似たもんだ」
「似たもんだって、本当の発句じゃないの」
「なかなか追窮するね。それよりか御前今日は大変立派なものを縫ってるね。何だいそれは」
「これ? これは伊勢崎(いせざき)でしょう」
「いやに(ぴか)つくじゃないか。兄さんのかい」
阿爺(おとうさま)のよ」


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