生きている
蛾のほうが、
貝がらよりもきれいでありました。けれど、かず
子さんは、
気味悪がって、その
蛾を
取ろうとしませんでした。
「ほんとうに、きれいだわね。ついている
白い
粉、
毒でしょう。」
「あとで、
手を
洗うからいいよ。
数珠玉だって、この
青い
貝よりきれいだぜ。」
「やっぱり、
私、
貝がらのほうがいいわ。だって、
海にあるんですもの。」
海ときいて、
正吉は、だまって、
考え
込んでいました。
「
正ちゃん、なにしてんだい。」
そこへ、
義雄くんがやってきました。
義雄は、
小さな
空きかんを
握っていました。
「みみずを
取りにきたの?」と、
正吉が、きくと、
彼は、
頭が
横に
振って、
「
君、がまがえるを
見ない。」といいました。
「ひきがえるなら、
私の
家のお
庭にいてよ。」と、かず
子さんが、いいました。
「いまいる?」
「
雨が
降ると、
出てくるわ。」
「なあんだ、そんなんじゃ、しかたがないよ。」
「がまがえる、どうするんだい。」と、
正吉がききました。しかし、
義雄は、きかぬふりをして、
「
正ちゃん、
僕、よく
釣れるところをきいたから、こんどの
日曜にゆかない。」と、
話をそらしました。
「
義雄さん、ほんとう、つれていってくれる?」
正吉は、
目をまるくして、
義雄を
見ました。
義雄は、うなずきました。
「どっかに、がまはいないかなあ。かたつむりでもいいんだけど。」
釣りにつれていってくれるといったので、
正吉は、もう
有頂天でした。
「かたつむりでもいいの、かたつむりなら、
僕、さがしてあげるよ。」
正吉は、くさむらの
中を
潜って、かけずりました。そして、
義雄が、まだ一ぴきも
見つけないうちに、
正吉は、三びきも
見つけて、
義雄に
与えました。
「これだけあれば、いいよ。」
「
義雄さん、
飼っておくの。」と、
正吉は、ききました。
「
学校へ
持っていって、
理科の
時間に
解剖するのだよ。」
「えっ、
殺してしまうの?」
正吉は、ぞっとしました。それなら、
捕まえてやるのではなかったと
思ったが、もうおそかったのです。
心の
中が、
急に
暗くなりました。そして、なにもかも、おもしろくなかったのです。
「かわいそうだなあ。」
やった、かたつむりを
取り
返す、いい
智慧が
浮かんできませんでした。
「
毒びんの
中に
入れると、
苦しまなくて、
死んでしまうのだよ。」と、
義雄は、
心配する
必要はないと、いいました。けれど、
正吉には、
命を
取るということが
問題なのです。
義雄は、びんの
中へ、
草の
葉も
入れて
持ってゆきました。いつのまにか、かず
子さんはいなくなりました。
正吉だけ、いつまでも
自分のしたことを
後悔していました。
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