眼鏡(5)
日期:2022-08-08 23:57 点击:255
三
青木は、
小西が、あやまりにきてくれなかったので、わった
眼鏡の
球代を
半分、
弁償してもらうことにしました。そして、このことを
正吉と
小田に
話すと、
二人ともいっしょにいこうといってくれました。
「
眼鏡屋の
受取証を
忘れずに、
持ってゆくんだぜ。」と、
小田が、
注意しました。
正吉は、
学校から
帰ると、
道順から、
青木と
小田の
誘いにくるのを
待つ
間、
金魚の
水を
換えたりしていました。やがて、
外で
二人の
声がしたので、
正吉は、
家を
出たのであります。
小田が、
小西の
家を
知っているというので、ほかの
二人は、ついていきました。さるすべりの
咲いている
家の
垣根について
曲がると、お
湯屋がありました。その
付近には、
小さな
商店が、かたまっていましたが、
小西の
家は、その
中の
青物屋でありました。こちらから
見ると、なすや、きゅうりや、
大根などが、
店先にならべられて、
午後の
赤色をした
日の
光を
受けていました。
小西は、もう
学校から
帰って、
家のてつだいをしていましたが、
貧しげなようすから
見て、
正吉は、なんだか、
金を
出させるのは、かわいそうな
気がしました。
三
人は、
小西が、こちらを
向いてくれるのを
待っていましたが、なかなか
向きそうもありませんので、
「
小西くん!」と、ついに、
小田が、
小さな
声で
呼んだのであります。きこえたとみえて、
小西は、じっとこちらを
見ました。そして、にっこり
笑うと、
彼の
姿は、
奥へ
消えて
見えなくなりました。
「どうしたんだろうね。」
「いま、
出てくるよ。」
こんなことを
話しているところへ、
小西が
走ってきました。
青木は、
小西に
向かって、
「
君、
半分弁償してくれない?」といいました。
「いくらなの?」と、
小西は、ききました。
青木は、
上衣のポケットから、
眼鏡屋の
受取証は
出して
渡しました。
「
家まで、きてくれない。」
三
人は、
小西のあとについてゆきました。
店の
次の
間では、
小西の
父親らしい
人が、
肌脱ぎで、
若い
男を
相手にして、
将棋をさしていました。
小西が、
受取証を
父親に
見せると、
父親は、しばらくだまって
考え
込んでいました。
将棋の
相手をしている
若い
男が、「どうしたんだ?」と、のぞき
込みました。
父親は、
説明しているらしかったのです。すると、その
若い
男は、なにか
小さな
声で、
理屈をいっているらしかったが、たちまち、三
人のいる
方へ
顔を
向けて、
「みんなが
騒いで、わったのだから、みんなで
弁償するのがあたりまえでしょう。
一人に
半分出させる
法はないだろう。」と、おどすような
口調で、いいました。三
人は、
思いがけない
反対に
出あって、たがいに
顔を
見合わせました。
「
子供だと
思って、ばかにしている。」と、
小田がつぶやきました。
このとき、
正吉は、その
男をにらんで、
「いくら、おおぜいが
騒いでも、
眼鏡を
飛ばさなければ、われなかったんだろう。」と、いくらか、せき
込んで
答えました。これに
対して、
若い
男が、なにかいおうとすると、
「
自転車屋のおじさん、いいんだよ。」と、
小西は、むりに
男を
押さえました。そして、三
人を
引っ
張るようにして、
湯屋の
前のすこしばかりの
空き
地へきました。
「きっと、あげるよ。
今月の
末まで、
待ってくれない?
僕、
新聞を
配達しているのだから、お
金をもらったら、すぐ
持っていくよ。」
そういった、
小西の
顔色にも、
言葉にも、
真実があらわれていました。
「ああ、いつでもいいんだ。」
青木は、こう
答えました。
彼は、
小西の
境遇に
同情したばかりでなく、むしろ、
感心な
少年だと
心を
打たれたのです。
正吉も、
小田も
感じたことは、
同じでありました。
三
人は、また、もときた
道を
帰りました。
最後まで、
黙っていた
父親や、おどそうとした
若い
男の
顔は、三
人の
目にいつまでも
残っていて、
不快な
感じがしたけれど、
小西からは、まったくそれと
反対な、
快い
印象を
受けたのであります。
自分たちの
世界は、
別だと
考えたのは、
独り
正吉だけではなかったのです。いま、
小西に
対して
感ずるものは、
友愛の
情よりほかにありませんでした。
「あっ、
渡り
鳥が!」と、
小田が、
大空を
指しました。はるかに、
空をたがいにいたわりながら、
遠く
旅をする
鳥の
影が
見られました。
三
人は
無限の
感慨で、
見えなくなるまで、いっしょに、その
鳥の
影を
見送っていたのであります。
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