芽は伸びる(1)
日期:2022-08-08 23:57 点击:254
芽は伸びる
小川未明
一
泉は、
自分のかいこが、ぐんぐん
大きくなるのを
自慢していました。にやりにやり、と
笑いながら、
話を
聞いていた
戸田は、
自分のもそれくらいになったと
思っているので、おどろきはしなかったが、
誠一は、ひとり
感心していました。お
母さんが、きらいでなければ、
自分もかいこを
飼いたいのです。なんでお
母さんは、あんな
虫が
怖いのだろう。お
母さんや、
妹が、かわいい
顔をしているかいこを、
気味わるがっているのが、
不思議でたまらなかったのであります。そこへ、ちょうど
理科の
長田先生が
通りかかられました。
「
君たち、なにをしているね。」と、みんなの
顔を
見て
笑っていられたのです。
「おかいこの
話をしていたのです。
先生、
僕のおかいこは
大きくなりました。」と、
泉が、いいました。
「そうか、
学校のと、どっちがいい
繭を
造るかな。」
「
競争するといいや。」と、
戸田がいいました。
「
君も、
飼っているのかね。」
「
飼っています。」
ひとり
誠一がだまっているので、
先生は
誠一の
顔をごらんになって、
「
南、おまえは。」と、お
聞きになりました。
誠一は、こないだ
先生がみんなにかいこを
飼ってみるようにおすすめなさったのを
覚えています。
自分だけ
飼わぬと
答えるのは、なんだか
理科に
対して、
不熱心に
思われはせぬかと
考えたので、
「
僕、かいこを
飼いたいのですけれど、かいこがないのです。」といいました。
「ほんとうに
飼うなら、
学校のを四、五
匹あげよう。あとからきたまえ。」といって、
先生は、
誠一の
頭をぐりぐりとなでて、
彼方へいってしまわれました。三
人は
先生の
後を
見送っていましたが、たがいに
心の
中でやさしい
先生だと
思ったに、ちがいありません。
「じゃ、みんなで、
競争しようか。」と、
泉が、いいました。
「いいとも。」と、
戸田が、
答えました。
まったく
経験のない、そして、どうするかも
知らない
誠一は、すぐに
返事ができなかったのです。
誠一は、
「むずかしいだろうね。」と、
心もとなさそうに、いいました。
「
僕、よく
教えてあげるよ。お
菓子の
空き
箱と、あとでわらがあればいいんだよ。」と、
戸田が、
勇気づけてくれました。
「それに、
桑の
葉がないのだが。」
「
桑の
葉なら、
僕、
明日学校へ
持ってきてあげる。びんの
中へ
水を
入れてさしておきたまえ。」と、
泉が、
教えました。
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