芽は伸びる(3)
日期:2022-08-08 23:57 点击:244
三
戸田が、
帰ってしまった
後でした。
「
誠ちゃん、こんなところに、おかいこを
置いては、かわいそうじゃありませんか。
風の
通る
涼しいところがいいではありませんか。」と、
物置へはいって、
石炭を
出していられたお
母さんが、かいこの
箱を
見つけておっしゃいました。
「お
母さんの、
見えないところといったんでしょう。」
「あんたのおへやに
置きなさい。」
「みよ
子がいやだというのだもの。」
「あの
子も、
私ににたのですね。そんならお
座敷に
置きなさい。」
「え、お
座敷に
置いていいの。」
「ちらかさないように、
下になにか
敷いてね。」
お
母さんが、そうおっしゃると、
誠一はうれしかったのです。やはりお
母さんは、やさしいなと
感じたのです。
門の
外へ
出ると、
西の
空が
赤々としていました。とみ
子さんや、よし
子さんや、
勇ちゃんたちが、
遊んでいました。
「どこかに、
桑の
木がないか
知らない。」
「おかいこにやるの。」
「うん、
先生から、おかいこをもらってきたけれど、
桑の
葉がなくて
困っているのだ。」
「
僕に
見せておくれよ。」と、
勇ちゃんが、いいました。
「
私、
知っているわ。
原っぱにあってよ。」と、とみ
子さんが、いいました。
「どこの
原っぱに。」
「
土管の
置いてある、
原っぱに。」
「ほんとう。
僕、
桑の
木なんか
見なかったがなあ。」
「あってよ。おしえてあげましょうか。」と、とみ
子さんは、
真っ
先になって、
原っぱの
方へ
駈け
出しました。あとからみんながつづいたのです。
原っぱの
片すみの
方は、
草の
茂ったやぶになっていました。そこへは、
近所の
人たちが、よく
空き
俵や、ごみなどを
捨てるのです。そのやぶの
中をさして、
「ほら、あの
木がそうよ。」と、とみ
子さんがいいました。そこには、
青々とした、一
本の
木が、
夕日の
光を
浴びていました。
「あれ、
桑の
木かしらん。」
「そうよ。」
誠一は、やぶの
中へはいっていきました。いつか、ここで、ねこが
子を
産んだことがあります。
「ねこが、ここで
子を
産んだね。」
「あのねこは、
死んじゃったよ。」と、
勇ちゃんが、いいました。
誠一は、
白と
黒の、あわれなねこの
姿が
目に
浮かんだのでした。
彼の
後について
勇ちゃんも、とみ
子ちゃんも、よし
子さんもはいってきたのです。
「ほんとうに、
桑の
木だ。」
「
赤い
実がなっているわ。」
「ここにも。」
みんなが、わあわあいっていると、すぐあちらの
家のおばさんが、
生垣の
間から、こちらをのぞいて、
「みんな
葉をとらないでください。
私の
家にも、おかいこがありますからね。」といいました。
こんなにたくさん
葉があるのにと
思って、
誠一は、へんな
気持ちがしたが、
「すこししか、とりませんよ。」と、
答えました。
子供たちは、また、
草を
分けて、
原っぱの
広々としたところへもどると、
「いやなおばさんだね。」と、とみ
子さんが、いいました。
「やな、ばばあだな。」と、
勇ちゃんが、いって、みんなは、
赤い
屋根を
見上げました。
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