四
翌日、
学校へいくと、
泉はしんせつにびんの
中へ
桑の
枝をさして、
持ってきてくれました。
「こんど、
僕の
家へ
取りにおいでよ。
自転車に
乗ってくれば、わけがないだろう。」といいました。
その
桑の
葉はつやつやとして、
色が
黒く、
厚くて、ほんとうにうまそうです。こんな
葉を
食べているおかいこは、きっとよくふとっているだろう。そして、いい
繭を
造るにちがいない。
競争は、
泉の
勝ちかもしれないと、
誠一は
思いました。
学校の
帰り
道で、
戸田といっしょになったのです。
「
君のところの
桑の
葉も、こんなに
大きくて、おいしそうかい。」と、
誠一は、たずねました。
「まだ、
木が
小さいからね。」
「
僕は、
原っぱに
生えている
桑の
木の
葉を
取ってきたけれど、かたくて、おいしくなさそうだ。」
「それは、こやしを、やらないからだよ。」
「これは、こやしがきいているんだね。」
「そうさ。」と、
戸田は、なぜかくすくす
笑いました。
「
僕、
毎朝、
自転車にのって、もらいにいこうかな。」
「
泉の
家の
前は、
桑畑なんだぜ。だから、すこしばかり
取ったって、かまわないのさ。」
「
泉の
家から、
火葬場が
近いんだってね。」と、
誠一が
聞きました。
「だから
桑の
木のこやしに
火葬場の
灰をやるんだよ。」
「えっ、
火葬場の
灰をやるの。」
「いってみたまえ、
根のところが
白くなってるから。」
「
僕、もういくのをよした。」
「どうして。」
「だって、
気味がわるいもの。」
誠一には、
手に
持っている
桑の
葉の
光が、
急に
普通とちがっているように
感じられたのです。その
葉は
捨てなかったけれど、それからは、やはり
原っぱへいって、
桑の
葉を
取ってきました。
ある
日、やぶのところで、
十ばかりの
女の
子と、八つばかりの
男の
子が、
桑の
木の
方に
向かって
立っていました。とんぼを
捕るのでもなければ、また、きちきちを
捕るようなようすもなかったのです。
「なにしているの。」と、
不思議に
思って、
誠一は、
聞きました。
「
桑の
葉を
取りにきたの。」
「どこから。」
「
私の
家は、あの
赤い
屋根のお
家よ。」
誠一は、いつかみんな
葉を
取ってはいけないといった、おばさんの
家だと
思いました。
「おかいこをたくさん
飼っているの。」
「五十
匹ばかりいるの。」
「たくさんいるんだね。」
「もう、そろそろ
上がりかけているわ。」
「
早いなあ、
僕も
桑の
葉を
取りにきたのさ。」と、
誠一がいうと、
「
大きなへびがいるよ。」と、
男の
子が、いいました。
「どこに?」と、
誠一はびっくりしました。
「
私が、
学校の
帰りにここを
通ると、
大きなへびがあすこへはいっていったのよ。」
女の
子が、そういうのを
聞いて、
誠一もおそろしくなりました。
桑の
木を
見れば、
摘んでも、
摘んでも、
伸びる
若芽が、
風の
吹くたびになよなよとかがやいています。その
葉の
間から、
白い
枝が
見えるのが、なんだかへびのからんでいるようにも
見えたのであります。
誠一は、
石や、
土くれを
拾って、やぶを
目あてに
投げていました。こうすれば、へびがおどろいてどこへか
姿をかくすからでした。
「お
姉ちゃん、
帰ろうよ。」
「
僕が、
取ってあげるから
待っておいで。」
誠一は、
勇気を
出して、
草を
分けてはいっていきました。
桑の
枝を
折ろうとすると、
熟しきった
赤い
実が、ぽとぽとと
落ちました。
「さあ、これを
持ってお
帰り。」
誠一は、
桑の
枝を
女の
子の
手に
渡してやったのです。
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