ものぐさなきつね(1)
日期:2022-08-08 23:57 点击:259
ものぐさなきつね
小川未明
一
星は、
毎夜さびしい
大空に
輝いていました。そして
下界を
照らしていましたけれど、だれも
星を
見てなぐさめてくれるものとてなかったのです。
星は、それを
頼りないことに
思っていました。
鶏が、
朝早く
起きて、そのりこうそうな
黒い
瞳の
中に、
星影を
映して、
勇んで
鳴いてくれなかったならば、
星は、
毎夜毎夜、
音もない
野原や、
黒い
村や、
白く
霧のかかった
林や、ものすごい
水の
上を
照らしていることが、もう
飽き
飽きして、まったくいやになってしまったにちがいありません。
けれど、
若々しい
鶏の
喜ばしそうな
鳴き
声を
聞くと、
星は、すべての
長い
夜の
間の
物憂かったことなどを
忘れてしまいます。そうして、つい
鶏の
愛想のいいのに
引き
込まれて、いっしょに
日の
上らない
朝の
間を
楽しく
送るのでありました。
そのうちに
太陽が
東の
空を
上ると、もはや
鶏に
別れを
告げなければなりません。
星はさも
名残惜しそうにして、
西の
空に
没してゆくのでありました。すると
鶏も、もう
鳴くのをやめてしまいます。
こんなふうにして、
星と
鶏とはたいそう
仲がよかったのです。
星の
黙って、ぴかぴかとしてお
話をするのを、
鶏は
頭を
傾けて
聞いていました。そして
鶏だけには、
星のものをいうことがよくわかりました。また、
鶏の
鳴いていろいろなことを
話すのも、
星にはよくわかりました。
「まだ
牛も
馬も
眠っています。
私だけが
起きたのです。」と、
鶏は、
大きな
声を
出して
叫びます。またつぎに、
「いま、ようやく
家の
人たちは
起きました。そして、
勝手もとでガタガタ
音をさせています。いま、ろうそくに
火を
点けて、
裏口の
方へ
出てゆきます。きっと
馬にまぐさをやるのでしょう。」と、
鶏は
告げていました。
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