「なんかおもしろいことをして遊ばない?」と、敏ちゃんがいいました。
「クロをいじめてやろうか。」と、徳ちゃんは、あちらに丸くなってねむっている黒ねこを見て、いいました。
「あのね、徳ちゃん、いいことがある。」と敏ちゃんは、徳ちゃんの耳もとへ小さな声できさやきました。
「いい思いつきだね。きっとおもしろいよ。」
「僕、ふくろをさがしてくるから。」と、徳ちゃんは長ひばちのひきだしをあけて、紙のふくろをさがしていました。
「あったかい?」
「あった。」
あつい大きなふくろを見つけると、よろこんでとんできました。二人は、黒ねこのそばへ用心ぶかくやってきました。「ニャア。」と黒ねこは、うしろ向きになったまま、いたずらをしてはいけないというふうに鳴きました。これをきくと、二人はおかしくなって、とうとうわらい出してしまいました。
「知っているんだね。」
「知っていたっていいや。」
二人は、クロの頭に紙のふくろをかぶせてしまいました。
大きな黒ねこはおき上がって、後じさりをはじめて、そのふくろを取ろうとしました。けれど、どうしても取れないのでおどりだしました。二人はいっしょにとびまわって、おもしろがっていました。
このとき、おばさんの帰ってきたもの音がしたので、徳ちゃんは急いでクロにかぶせた紙ぶくろを取ってしまいました。
「なにをして遊んでいたの?」と、おばさんは、へやにはいってようすを見て、
「おまえさんたち、ねこをいじめたのかい?」と、おっしゃいました。
二人は、頭をふってわらっていました。黒ねこは、おばさんのところへいって、ゴロゴロとのどを鳴らしていました。これを見ると、敏ちゃんは、
「ねこも、やっぱりきりぎりすのように、ものがいえないのだな。」と思いました。
もののいえないものが、みんなかわいそうになりました。いつかまた、敏ちゃんは、ひとりぼんやりと考えこんでしまったのです。
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