ある日、この老人は、村の方へ出てゆきました。そして、王さまが宿なしどもや、乞食たちをお集めなされて、正月のご宴を開かれるということを聞いたのです。
「私も、ぜひまいってみたいものだ。」と、老人はいいました。
どこからともなく、たくさんの怪しげなふうをした人間が、城下へ集まってまいりました。毎日、毎日、雪道をあるいて、遠くから、ぞろぞろと入ってきました。
やがて、正月となり、その日とはなったのです。さすがに、広い、大きな、御殿へも、これらの人たちは、はいりきれなかったのでした。しかたなく、雪の上へ、むしろを敷いて、その上にすわらなければならなかった。
王さまのお言葉で、みんなに、上等の酒がふるまわれました。そこで、その日ばかりは、特別に無礼のことのないかぎり、彼らはくつろいで飲んでも、いいとのことであったから、みんなは、上機嫌になってしまいました。
そのとき、家来は、立ち上がって、彼らに向かって、
「王さまのお言葉である。いままで不思議と思ったこと、珍しいと思ったことがあったら、だれでも、そこで話すがいい。王さまは、この世の中の不思議なこと、珍しいことを知りたいと仰せらるるのだ。」といいました。
いい機嫌になって、くつろいで話をしていました彼らは、急に、静かになってしまいました。そして、たがいに、顔を見合わしているばかりで、立ち上がって、不思議なことや、珍しいことを語ろうとするものがありませんでした。
「なにも申しあげずに、だまっているのは、かえって、無礼に当たるぞ!」と、家来は、また、大きな声を出して、みんなを見まわしながらいいました。
そのとき、みすぼらしいふうをした一人の男が、立ち上がりました。
「ある寒い晩のこと、私は、森の中で、眠れずに目をさましていました。すると、真夜中ごろのこと、すさまじい音がして、星が、森の中へ落ちました。私は、星が落ちたのを見たことは、はじめてです。夜の明けるのを待って、昨夜、星の落ちた場所へいってみますと、土の中に底光りのする石がうまっていました。掘り出してみると、さるの顔に似た形をしていました……。」
このとき、王さまは、
「その石をどうした? ……まだ、持っているか。」といわれました。
「あまり、気味のいいものでありませんから、海の中へ投げ捨ててしまいました。すると、その日から三日間ばかり、海があれたのであります……。」と、みすぼらしい男は、答えました。
「やれやれ、そんな珍しいものを捨てて惜しいことをしたな。」と、王さまは、いわれたのです。
つぎに、また、みすぼらしいふうをした、ほかの男が立ち上がりました。みんなは、その男が、どんな話をするだろうかとながめていました。
「北の小さな町へ、山から、白くまが出てきたときは、町では大騒ぎをしました。町の人は、どうしても、その白くまを殺してしまわなければならぬといって追いました。