白くまは、どんどん逃げてゆきました。海は凍って、すでに氷の原となっていました。くまは、氷の上を走ってゆきました。すると、沖の方は氷がわれていて、その間に、黒い島が現れていました。くまは氷のかたまりの上を飛んで、その黒い島の上へ登ってしまいました。町の人々は、そこまでは、ゆくことができませんでした。しかし、白くまの上がった島は、くじらの背だったのです。そのうちに、くじらは、白くまを背中に乗せたまま、沖の方へだんだん動いていったのでした……。」
「それは、珍しい話だ。」と、王さまは、笑われました。
こんどは、彼らの踊りや、唄を聞きたいものだと、王さまは、仰せられたのであります。
「王さまのお許しであるから、唄をうたいたいものはうたい、踊りたいものは、おどるがいいぞ。」と、家来は伝えました。
彼らは、いろいろの唄をうたい、さまざまの踊りを、ごらんに入れたのです。王さまは、ひじょうに、ご満足なされて、
「ときどきこれから、こういう催しをすることにいたそう。」といわれました。そして、御殿から、外の広場へと出られて、みんなが、雪の上でもうたい、踊っているのを、ごらんぜられたのであります。
ちょうど、このとき、一人の老人が、大きな袋のようなものを脊負って、破れた、マンドリンに合わせて踊っていました。その踊りも変わっていれば、また、マンドリンの音も、さびしいうちになんともいえない陽気なところがある不思議な音でした。
「あの大きな袋の中には、なにがはいっているのか?」と、家来におたずねになりました。
家来にも、そればかりは、わかりませんでしたから、かたわらの人々に聞きますと、やはり、だれも知っているものがありません。
「いや、たぶん、きっと珍しい宝物がはいっているのだろう……べつに、問わなくともよい。」と、王さまは、笑われて、あちらへいってしまわれました。
やがて、踊りが終わると、乞食の一人が、おじいさんに、その袋の中には、なにがはいっているかと、たずねました。
おじいさんは、耳が遠いのか、それとも言葉が通じないのか、ただにやにや笑っているばかりです。宿なしどもの一人は、おじいさんの気のつかない間に、袋のすみに小さな穴を明けて、その中のものを見ようとしました。すると、中からは小粒の黒い種子のようなものが、こぼれてきました。
「なんだ、つまらない!」と、そのものは、つばをしました。
いつしか、日が暮れかけたので、酒もりも終わりを告げ、みんなは、ふたたびどこへともなく散ってしまったのです。
おじいさんは、大きな袋を脊負って、広い雪の野原を通って、破船の横たわる海岸を指して帰りました。袋のすみに、小さな穴の明いていることに気づかなかったから、おじいさんが歩くたびに、黒い種子が、ぼろぼろと雪の上にこぼれたのでした。
ちらちらと、雪が降ってきて、こぼれた黒い種子をみんな隠してしまいました。おじいさんが、袋の軽くなったのに、はじめて、気がついたときは、どうすることもできなかったのであります。
長い冬が、いつしか過ぎて夏がきました。そのとき、いままでさびしかった広い野原に、急に浮き出たように、紅・黄・白・紫、いろいろの珍しい花が、絵のごとく美しく咲き乱れたのでした。
世界じゅうを、あちら、こちら、歩いて、珍しい花の種子を集めて、おじいさんは東の方の故郷へ帰る途中で、この海岸で難船したのでした。
王さまは、その話を聞かれると、気の毒に思われ、厚くおじいさんをいたわられて、船に乗せて故郷へ帰してやられました。しかし、その花の野原は、いつまでも、王さまの心をなぐさめたのであります。
珍しい酒もり(4)
日期:2022-08-08 23:57 点击:248