日语学习网
青葉の下
日期:2022-09-06 23:59  点击:288
青葉の下

小川未明

 


 (とうげ)(うえ)に、(おお)きな(さくら)()がありました。(はる)になると(はな)がさいて、とおくから()るとかすみのかかったようです。その(した)に、(ちい)さなかけ茶屋(ぢゃや)があって、(ひと)のいいおばあさんが、ひとり店先(みせさき)にすわって、わらじや、お菓子(かし)や、みかんなどを()っていました。
 ()()って、(とうげ)()村人(むらびと)は、よくここのこしかけに(やす)んで、お(ちゃ)をのんだりたばこをすったりしていました。
 (けんきち)と、とし()と、正二(しょうじ)は、いきをせいて、学校(がっこう)からかえりに(さか)(のぼ)ってくると
「おばあさん、(みず)を一ぱいおくれ。」といって、()びこむのでした。
「おお、あつかったろう。さあ、いまくんできたばかりだから、たんとのむがいい。」と、おばあさんは、コップを()してくれました。おばあさんは、(とうげ)(した)から、二つのおけに清水(しみず)をくんで、(てん)びんぼうでかついで()げたところでした。
 ところが、自動車(じどうしゃ)が、こんどあちらの(むら)まで(とお)ることになって、(みち)がひろがるのでありました。それで、(さくら)()をきろうという(はなし)()こったのです。それに、はんたいしたのは、もとよりおばあさんでした。つぎには、この茶屋(ちゃや)(やす)んで、(はな)をながめたり、(すず)んだりした(むら)(ひと)たちです。それから、賢吉(けんきち)や、とし()や、正二(しょうじ)などの子供(こども)たちでした。
「あの(さくら)()をきっては、かわいそうだ。(はる)になっても、(はな)()られないし、(なつ)になっても、せみがとれないものなあ!」と、たがいに(はな)()いました。子供(こども)たちの不平(ふへい)(みみ)(はい)ると、(おや)たちも、いつかきることに、はんたいしました。それで(むら)人々(ひとびと)(さくら)()(みち)のそばへうつすことになったのです。おおぜいの(ちから)ですると、どんなことでもされるものです。(おお)きな(さくら)()は、じゃまにならぬところへうつされて、おばあさんの茶店(ちゃみせ)は、やはりその()(した)にたてられました。
「おばあさん、今年(ことし)は、(はな)がさかないのう。」
「そうとも、人間(にんげん)でいえば、大病人(だいびょうにん)だぞ。かれなければいいが。」と、おばあさんは、しんぱいしました。天気(てんき)がつづくと、おばあさんは、(した)から(みず)をくみ()げて、()もとへかけてやりました。
「おばあさん、(ぼく)がくんできてやるから。」
 ある()学校(がっこう)(かえ)りに賢吉(けんきち)は、すぐはだしになって、バケツを()げて、(とうげ)をかけ(くだ)りました。それから、とし()も、正二(しょうじ)も、(むら)子供(こども)たちは、学校(がっこう)(かえ)りに、(みず)をくんで、(さくら)()()にかけてやるのを日課(にっか)としたのです。どうでしょう。()は、ふたたび(むかし)元気(げんき)をとりもどしました。いま、(おお)きな(えだ)には青葉(あおば)がふさふさとして、銀色(ぎんいろ)にかがやいています。
「みんなのおかげでな、この()(たす)かったぞ。」と、おばあさんは、こしかけている(むら)子供(こども)たちの(かお)をながめて、さも、うれしそうでありました。

 


分享到:

顶部
11/16 11:46