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赤土へくる子供たち(4)
日期:2022-09-13 01:52  点击:228
 


 (はら)っぱのはしの(ほう)に、(ちい)さな(もり)がありました。いろいろの()がしげっていて、(かぜ)()くと、()がきらきらと(なみ)のように、かがやきました。ひるすこしすぎる時分(じぶん)、「カチ、カチ。」という拍子木(ひょうしぎ)(おと)が、その(ほう)からきこえました。紙芝居(かみしばい)のおじさんが、子供(こども)たちを()んでいるのです。(はら)っぱで、ボールをなげているもの、とんぼを()いかけているものが、一人(ひとり)二人(ふたり)と、その(ほう)へかけていって、(もり)(なか)(あつ)まりました。
 (もり)(なか)には、(ちい)さなお稲荷(いなり)さまのほこらがたっています。そのほこらのとりいの(まえ)は、あちらの(まち)へつづく、ひろい(みち)になっていました。おじさんは、とりいのところへ自転車(じてんしゃ)をおいて、みんなのくるのをまっていました。(みっ)ちゃんととみ()さんは、(いし)のさくによりかかっていました。(しん)一も、勇二(ゆうじ)も、ほかの子供(こども)たちの(なか)へまじって、ぼんやりと()っていました。
 ちょうど、そこは、すずしい()かげになっていて、(あたま)(うえ)では、せみがジイジイとないています。やがて、「突撃兵(とつげきへい)」という、おじさんのお(はなし)が、はじまりました。
「ある()召集令(しょうしゅうれい)が、(ちゅう)一のもとへまいりました。(かれ)は、()()仕事道具(しごとどうぐ)をなげすててすぐに()ちあがった。
(いもうと)よ、あとをよろしくたのんだ。』
『お(とう)さん、きょうは、ご気分(きぶん)は、いかがですか?』
 (あに)のいなくなった(あと)は、かよわい(おんな)()ながら、(いもうと)は、はたらいて、よく父親(ちちおや)看護(かんご)をしていました。
(なが)(あいだ)、よくめんどうをみてくれたぞ。しかし、もう(わたし)もいくときがきたんだ。ただ()きているうちに、せがれのてがらをきかずにいくのが、ざんねんだ。』
『お(とう)さん、そんな(こころ)ぼそいことをおっしゃっては、いけません。』
『いや、それよりかおまえは、お(とう)さんがなくなったら一人(ひとり)になってしまう。おまえも日本(にっぽん)(おんな)だ。なんなりと、自分(じぶん)(ちから)でできることをして日本(にっぽん)のためにつくすんだぞ。』
『お(とう)さん、よくわかりました。いま日本(にっぽん)(ひと)は、(おとこ)でも(おんな)でも、(とし)よりでも子供(こども)でも、一人(ひとり)のこらず、(ちから)をあわせて、()ちあがらなければならぬときがきたんです。(わたし)は、(おんな)ながら、つねにその覚悟(かくご)()っています。』
『ああ、それで安心(あんしん)した。』
 これが、父親(ちちおや)のわかれのことばでした。
 (はなし)かわって、こちらは、戦場(せんじょう)であります。(てき)は、()ごわくわが(ぐん)前進(ぜんしん)をさまたげている。(ちゅう)一の部隊(ぶたい)は、クリークをへだてて、その(てき)()かいあっていました。
 あすの夜明(よあ)けに、(てき)のトーチカをくだいてしまえという命令(めいれい)がくだった。(ちゅう)一をはじめ一(めい)を、天皇陛下(てんのうへいか)にささげた勇士(ゆうし)たちは、故郷(こきょう)へ、これがさいごの手紙(てがみ)()いてねむりにつきました。
 その夜中(よなか)のこと、(ちゅう)一一等兵(とうへい)()をひらくと、国防婦人会(こくぼうふじんかい)(しろ)(ふく)をきた(いもうと)()っている。おお、どうしてこんなところへきたかと、おどろいた。
『お(にい)さんに、()らせにまいりました。』
『なにっ、お(とう)さんが、なくなられたか。それで、おわかれに、なんとおっしゃられた?』
『はい。』と、(いもうと)がなみだぐみながら、
『せがれのてがらを、この()できかずにいくのがざんねんだと、おっしゃいました。』
 (ちゅう)一一等兵(とうへい)は、がばとはね()きました。同時(どうじ)()がさめたのであります。
『お(とう)さん、ゆるしてください。じきに(わたし)もおそばへまいります。』」
 おじさんが、ここまで(はな)したときに善吉(ぜんきち)武夫(たけお)が、(はし)ってきて、
(しん)ちゃん、川先生(よしかわせんせい)がきたから、(はや)くおいでよ。」と、いって、ほこらのうしろの(ほう)へかくれようとしました。おどろいて、(しん)一と勇二(ゆうじ)は、その(あと)()ったのです。紙芝居(かみしばい)のおじさんは、(なに)ごとがおこったのかと、(おも)ったのでしょう。
「どうしたのだ、どうしたのだ。」と、ききました。
学校(がっこう)先生(せんせい)が、きたんだよ。」
「なに、先生(せんせい)が。ちっともわるいことは、ないじゃないか。」と、おじさんはいばりました。
 学校(がっこう)先生(せんせい)が、七、八(にん)上級(じょうきゅう)生徒(せいと)をつれて交通整理(こうつうせいり)見学(けんがく)にとおったのです。先生(せんせい)たちが、いってしまうと、(しん)一も勇二(ゆうじ)善吉(ぜんきち)武夫(たけお)(かお)()せました。
「みんな、どうしたの?」と、おじさんがいいました。
「ぼくたち、いまとりいの(まえ)で、べいをしているのを()つかったんだよ。」
「なぜここへきて、(はなし)をきかなかったの? そんなことをするから、先生(せんせい)が、こわいのだよ。」と、おじさんは(わら)いました。
小山(こやま)くんが、先生(せんせい)に、ぼくたちのことをいいつけたんだ。だから、先生(せんせい)が、ぼくたちのそばまできて、のぞこうとしたんだ。」
「あした、学校(がっこう)へいくとしかられるよ。」と、善吉(ぜんきち)はしょげてしまいました。
小山(こやま)くん、ひきょうだね。こないだのしかえしをしたんだ。」と、(しん)一は、いいました。
「ほんとうに、ひきょうだな。」
「おじさん、このお(はなし)(あと)はどうなったの?」と、ほかの(ちい)さな子供(こども)が、ききました。
「このあとのお(はなし)は、またあす。これで、きょうはおしまい。」
 子供(こども)たちは、(おも)(おも)いに、ちってしまいました。
「おじさんは、(まえ)にきた、紙芝居(かみしばい)のおじさんと、お(とも)だちだってね。」と、(しん)一がいいました。
「ああ、(とも)だちさ、ぼくらは、みなが、いい(ひと)になって、日本(にっぽん)(くに)が、ますます(つよ)くなるようにと、紙芝居(かみしばい)をして(ある)いているんだ。」と、おじさんが(こた)えました。
「じゃ、おじさんは、ほんとうのあめ()さんじゃないんだね。」と、善吉(ぜんきち)は、おじさんの(かお)を、ふしぎそうに()ました。
「あめも()るから、ほんとうのあめ()さ。だってお(はなし)ばかりでは、きいてくれないだろう。」
「ぼく、お(はなし)だけでも、きくよ。」
「じゃ、あしたから、あめを()ってくるのをよそうかな。」
「そして、お(かね)をとらないの。」
「ほら、ごらん。みなは、お(はなし)より、あめのほうがいいのだ。」
「お(はなし)もきいて、あめも、もらいたいのだよ。」
「ぼく、お(はなし)だけでもいいな。」
「だれだ、えらいぞ。は、は、は。」と、おじさんは(わら)いました。


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