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赤土へくる子供たち(5)
日期:2022-09-13 01:53  点击:238
 


 翌日(よくじつ)学校(がっこう)のかえりに、善吉(ぜんきち)武夫(たけお)二人(ふたり)は、吉川先生(よしかわせんせい)からのこされました。
「きっと、(ぜん)ちゃん、べいごまのことだよ。」と、武夫(たけお)がいいました。
「ああ、それにきまっているさ。だが、なんで、べいをしていけないんだろうね。」と、善吉(ぜんきち)は、まどの(そと)のかきの()見上(みあ)げていました。(あき)になってから、()(ひかり)が、(なつ)よりもかえって(つよ)いようです。一つ、一つ、さすように()(うえ)にかがやいていました。
「かきがなっているね、(たけ)ちゃん、これはしぶいのだろう。」
「あまいのかもしれない。ここから、あの(えだ)へは、うつれないかね。」
「とびつけば、とどくけど、()ちたらたいへんだ。」
 二人(ふたり)は、二(かい)のまどから、かきの()()ながらいろいろ(かんが)えつづけていました。そして、(はや)(いえ)へかえって、あそびたいなと(おも)ったのです。それだけでなく、お(かあ)さんや、お(ねえ)さんが、しんぱいしていられるだろうと(おも)うと、こうしていることが、くるしかったのです。
先生(せんせい)(はや)くこないかな。」
(わす)れたんだろう。かえろうか、(たけ)ちゃん。」
 このとき、ろうかを(ある)いてくる、くつ(おと)がしたのでした。二人(ふたり)は、(きゅう)におぎょうぎをよくしていました。
 先生(せんせい)は、教壇(きょうだん)のいすにこしを()ろして、
「こっちへおいで。」と、善吉(ぜんきち)武夫(たけお)二人(ふたり)(まえ)()ばれました。
「きのうは、(いえ)へかえってから、なにをしてあそんでいたね。」と、先生(せんせい)二人(ふたり)(かお)をごらんになりました。
 善吉(ぜんきち)は、(かお)()げて、
「まりをなげたり、べいをしていました。」と、すなおに(こた)えました。
「べいをしては、いけないというのでなかったかな。」
 善吉(ぜんきち)は、先生(せんせい)にそういわれると、だまってうつむきました。
(きみ)は、どう(おも)うね。」と、先生(せんせい)は、こんどは武夫(たけお)()かって、おききになりました。
「よくないと(おも)います。」と、武夫(たけお)(こた)えました。
「わるいと(おも)うものを、なぜやったのだ。」
 先生(せんせい)(かお)は、しだいにおそろしくなりました。
「しまいに()ったべいを、みんな(かえ)せばいいと(おも)いました。」と、善吉(ぜんきち)が、いいました。
 先生(せんせい)は、しばらくだまって、善吉(ぜんきち)のいうことをきいていられましたが、
(きみ)たちは、わるいことをして、(あと)でそれを(かえ)せばいいと(おも)うのかね。」と、おっしゃいました。
先生(せんせい)こまをまわすことは、わるいことですか。」と、武夫(たけお)が、こんど先生(せんせい)(かお)()ながら、ふしぎそうにたずねたのです。(せんせい)は、ちょっと(あたま)をかしげて、すぐには、返答(へんとう)をなさいませんでしたが、しばらくしてから、
「こまをまわすことを、いけないというのではない。()ったり、()けたりするのに、品物(しなもの)をかけてやることを、いけないというのだ。べいなら、その()けたこまを、()ったものが()るというふうに、勝負(しょうぶ)(あと)が、品物(しなもの)のやりとりになるからいけないというのだ。」
先生(せんせい)そんなら、ただ、おたがいがこまをまわして、勝負(しょうぶ)をするぶんなら、いいのですか。」
「ものをかけたりしなければ、わるいことはない、みんなが、ただ一つぎりでな。ぼくも、子供(こども)時分(じぶん)は、こまをまわすのが(だい)すきだった。」
先生(せんせい)も、べいをなさったのですか?」と、二人(ふたり)子供(こども)は、おどろいた(かお)をしました。
「いや、ぼくの子供(こども)時分(じぶん)には、べいごまなどというようなものは()なかった。もっと大形(おおがた)()ごまか、鉄胴(てつどう)のはまったこまだった。鉄胴(てつどう)のこまには、()ごまは、どうしてもかなわなかったものだ。そして、こまの合戦(かっせん)は、それは、さかんなものだった。」
 吉川先生(よしかわせんせい)は、自分(じぶん)子供(こども)時分(じぶん)(おも)()して、いまのようにものをかけずに、ただ勝負(しょうぶ)をしただけで、それでもみんなが、満足(まんぞく)したという(はなし)をなさいました。
()ごまは、鉄胴(てつどう)にかかると、よく()二つにわれたものだ。そのわれるのが、またゆかいだった。しかし、つばきの()でつくった()ごまは、たいへんかたくて、なかなかわれぬばかりでなく、うまく火花(ひばな)をちらして、ぶつかって、どぶの(なか)鉄胴(てつどう)をはねとばしてしまうことが、あったものだ。」
先生(せんせい)、おもしろいですね。」
「おもしろいが、べいなんか、もうよしたまえ。このごろは、みんなでいっしょにたのしんで、そして、()()けをきめるようなおもしろいあそびが、たくさんあるじゃないか。」と、先生(せんせい)は、おっしゃいました。この時分(じぶん)には先生(せんせい)のお(かお)は、いつものやさしいお(かお)になっていました。
先生(せんせい)よくわかりました。」と、善吉(ぜんきち)が、いいました。
「わかったか。」
「わかりました。けれど先生(せんせい)につげ(ぐち)するものなんか、もっとひきょうだと(おも)います。」と、武夫(たけお)が、いいました。
「つげ(ぐち)されるようなことをしなければいいのだ。では、もうかえるがいい。」
 吉川先生(よしかわせんせい)は、()()がると、さっさと、ろうかの(ほう)(ある)いていかれました。
(くろ)めがねの(かみ)しばいのおじさんは、ぼく、この(はなし)をしたら、(たっ)ちゃんは、自分(じぶん)がけんかができないので、先生(せんせい)にいうなんてひきょうだといったよ。」と、善吉(ぜんきち)がいいました。
「おじさんは、先生(せんせい)をよく()っているといったね。」
「ああ、おじさんも、日本(にっぽん)子供(こども)は、そんとか、とくとかいうことなんか、(かんが)えてはいけない。(ただ)しいことをしなければならぬといった。」
 二人(ふたり)は、階段(かいだん)()りて、(はな)しながら校門(こうもん)(そと)()たのでありました。
(ぜん)ちゃん、あの(いぬ)をごらんよ。」
 武夫(たけお)のゆびさした(ほう)()ると、(しろ)(いろ)(いぬ)が、まりをくわえて主人(しゅじん)(あと)についていきました。ある(いえ)(もん)のところに、茶色(ちゃいろ)(いぬ)がはらばいになっていたが、この(いぬ)()つけると、(きゅう)におきあがって、ほえはじめました。二ひきの(いぬ)のあいだが、だんだん(ちか)づきました。しかし、まりをくわえた(いぬ)は、()らぬ(かお)をして、わき()もせずに主人(しゅじん)についていくと、茶色(ちゃいろ)(いぬ)はいまにもとびつこうとしたのでありました。


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