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ある夜の星たちの話(2)
日期:2022-10-14 08:26  点击:244

「そうです、汽車(きしゃ)が、(とお)っています。(まち)からさびしい野原(のはら)へ、野原(のはら)から(やま)(あいだ)を、(やす)まずに(とお)っています。その(なか)()っている乗客(じょうきゃく)は、たいてい(とお)いところへ(たび)をする人々(ひとびと)でした。この(ひと)たちは、みんな(つか)れて居眠(いねむ)りをしています。けれど、汽車(きしゃ)だけは(やす)まずに(はし)りつづけています。」と、下界(げかい)のようすをくわしく()っている(ほし)(こた)えました。
「よく、そう(からだ)(つか)れずに、汽車(きしゃ)(はし)れたものだな。」と、運命(うんめい)(ほし)は、(あたま)をかしげました。
「その(からだ)が、(かた)(てつ)(つく)られていますから、さまで(こた)えないのです。」と、やさしい(ほし)がいいました。
 これを()くと、運命(うんめい)(ほし)は、身動(みうご)きをしました。そして、(おそ)ろしくすごい(ひかり)(はっ)しました。なにか、自分(じぶん)()にいらぬことがあったからです。
「そんなに堅固(けんご)な、()のほどの()らない、(てつ)というものが、この宇宙(うちゅう)存在(そんざい)するのか? (おれ)は、そのことをすこしも()らなかった。」と、盲目(めくら)(ほし)はいいました。
 (てつ)という、堅固(けんご)なものが存在(そんざい)して、自分(じぶん)反抗(はんこう)するように(かんが)えたからです。
 このとき、やさしい(ほし)はいいました。
「すべてのものの運命(うんめい)をつかさどっているあなたに、なんで汽車(きしゃ)反抗(はんこう)できますものですか。汽車(きしゃ)や、線路(せんろ)は、(てつ)(つく)られてはいますが、その月日(つきひ)のたつうちにはいつかはしらず、磨滅(まめつ)してしまうのです。みんな、あなたに征服(せいふく)されます。あなたをおそれないものはおそらく、この宇宙(うちゆう)に、ただの一つもありますまい。」
 これを()くと、運命(うんめい)(ほし)は、(こころよ)げにほほえみました。そして、うなずいたのであります。
 また、しばらく(とき)()ぎました。(そら)(かぜ)()たようです。だんだん(あかつき)(ちか)づいてくることが()れました。
 (ほし)たちは、しばらく、みんな(だま)っていましたが、このとき、ある(ほし)が、
「もう、ほかに()わったことがないか。」といいました。
 ちょうど、このときまで、熱心(ねっしん)(した)地球(ちきゅう)見守(みまも)っていましたやさしい(ほし)は、
「いま、二つの工場(こうじょう)煙突(えんとつ)が、たがいに、どちらが毎日(まいにち)(はや)()るかといって、いい(あらそ)っているのです。」といいました。
「それは、おもしろいことだ。煙突(えんとつ)がいい(あらそ)っているのですか?」と、一つの(ほし)は、たずねました。
 新開地(しんかいち)にできた工場(こうじょう)が、(なら)()って二つありました。一つの工場(こうじょう)紡績工場(ぼうせきこうじょう)でありました。そして一つの工場(こうじょう)は、製紙工場(せいしこうじょう)でありました。毎朝(まいあさ)、五()汽笛(きてき)()るのですが、いつもこの二つは前後(ぜんご)して、(おな)時刻(じこく)()るのでした。
 二つの工場(こうじょう)屋根(やね)には、おのおの(たか)煙突(えんとつ)()っていました。星晴(ほしば)れのした(さむ)(そら)に、二つは(たか)(あたま)をもたげていましたが、この(あさ)昨日(きのう)どちらの工場(こうじょう)汽笛(きてき)(はや)()ったかということについて、議論(ぎろん)をしました。
「こちらの工場(こうじょう)汽笛(きてき)(はや)()った。」と、製紙工場(せいしこうじょう)煙突(えんとつ)は、いいました。
「いや、(わたし)のほうの工場(こうじょう)汽笛(きてき)(はや)かった。」と、紡績工場(ぼうせきこうじょう)煙突(えんとつ)はいいました。
 結局(けっきょく)、この(あらそ)いは、()てしがつかなかったのです。
今日(きょう)は、どちらが(はや)いかよく()をつけていろ!」と、製紙工場(せいしこうじょう)煙突(えんとつ)は、(おこ)って、紡績工場(ぼうせきこうじょう)煙突(えんとつ)(むか)っていいました。
「おまえも、よく()をつけていろ! しかし、二人(ふたり)では、この裁判(さいばん)はだめだ。だれか、たしかな証人(しょうにん)がなくては、やはり、いい(あらそ)いができて(おな)じことだろう。」と、紡績工場(ぼうせきこうじょう)煙突(えんとつ)はいいました。
「それも、そうだ。」
 こういって、二つの煙突(えんとつ)(はな)()っていることを、(そら)のやさしい(ほし)は、すべて()いていたのであります。
「二つの煙突(えんとつ)が、どちらの工場(こうじょう)汽笛(きてき)(はや)いか、だれか、裁判(さいばん)するものをほしがっています。」と、やさしい(ほし)は、みんなに()かっていいました。
「だれか、工場(こうじょう)のあたりに、それを裁判(さいばん)してやるようなものはないのか。」と、一つの(ほし)がいいました。
 すると、あちらの(ほう)から、
「この(さむ)(あさ)、そんなに(はや)くから()きるものはないだろう。みんな(とこ)(なか)に、もぐり()んでいて、そんな汽笛(きてき)(おと)注意(ちゅうい)をするものはない。それを注意(ちゅうい)するのは、(まず)しい(いえ)()まれて(おや)手助(てだす)けをするために、(はや)くから工場(こうじょう)へいって(はたら)くような子供(こども)らばかりだ。」といった(ほし)がありました。
「そうです。あの(まず)しい(いえ)二人(ふたり)子供(こども)も、もう(とこ)(なか)()をさましています。」と、やさしい(ほし)はいいました。
 それから(のち)も、やさしい(ほし)だけは、(した)世界(せかい)をじっと見守(みまも)っていました。
 (あね)も、(おとうと)も、(とこ)(なか)()をさましていたのです。
「もうじき、()()けますね。」と、(おとうと)は、(あね)(ほう)()いていいました。
 また、今日(きょう)電車(でんしゃ)停留場(ていりゅうじょう)へいって、新聞(しんぶん)()らねばならないのです。(おとうと)昨夜(ゆうべ)(いぬ)()いかけられた(ゆめ)(おも)()していました。
「いま、じきに、製紙工場(せいしこうじょう)か、紡績工場(ぼうせきこうじょう)かの汽笛(きてき)()ると、五()なんだから、それが()ったら、お()きなさいよ。(ねえ)さんは、もう()きてご(はん)支度(したく)をするから。」と、(あね)はいいました。
 このとき、すでに母親(ははおや)()きていました。そして、(ねえ)さんのほうが()きて、お勝手(かって)もとへくると、
今日(きょう)は、たいへんに(さむ)いから、もっと(とこ)(なか)にもぐっておいで。いまお(かあ)さんが、ご(はん)支度(したく)して、できたら()ぶから、それまで(やす)んでおいでなさい。まだ、工場(こうじょう)汽笛(きてき)()らないのですよ。」と、お(かあ)さんはいわれました。
「お(かあ)さん、(あか)ちゃんは、よく(ねむ)っていますのね。」と、(あね)はいいました。
(さむ)いから、()くんですよ。いまやっと眠入(ねい)ったのです。」と、お(かあ)さんは、(こた)えました。
 (ねえ)さんのほうは、もう(とこ)にはいりませんでした。そして、お(かあ)さんのすることをてつだいました。
 ()(うえ)は、()(しろ)(しも)にとざされていました。けれど、もうそこここに、(ひと)(うご)()がしたり、物音(ものおと)がしはじめました。(ほし)(ひかり)は、だんだんと()ってゆきました。そして、太陽(たいよう)(かお)()すには、まだすこし(はや)かったのです。

 


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