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子ざると母ざる
日期:2022-11-01 16:48  点击:308

子ざると母ざる

母が子供に読んできかせてやる童話

小川未明


ある、かりゅうどがやまへいくと、ざるがひろってたべていました。もうじきにふゆがくるので、あかいろづいて、いろいろの小鳥ことりたちが、チッ、チッ、といっていていました。
かりゅうどは、ざるをつけると、足音あしおとをたてぬように、近寄ちかよりました。
「はてな、ざるひとりとみえるな。おやざるはどうしたろう?」
あたりをまわしたけれど、ははざるの姿すがたえませんでした。
「きっとざるめが、ははざるのらぬまに、あそびにたのだ。鉄砲てっぽうつのは、かわいそうだ。どれ、つかまえてやろう。」
かりゅうどは、こしにつけていた、つなで、おとしをつくりました。そして、自分じぶんは、そのはしをにぎって、かげかくれていました。
それともらずにざるは、をさがすのに夢中むちゅうになっていました。そのうちおとしのなかはいって、はっとおもうまに、ざるは、かりゅうどのらえられてしまいました。
かりゅうどは、むらかえると、ざるをいえまえにつないでおきました。すこしらして、まちりにいこうとおもったのです。
むら子供こどもたちは、見物けんぶつにきて、いもげてやったり、かきをげてやったりしました。ざるは、上手じょうずにそれをけて、べていましたが、やまはやしで、ひろってたべたのようにおいしくありませんでした。さむ西風にしかぜいて、えだうごくのをると、やまのおうちこいしくなるのでした。
「おうちかえりたいな。ひとりでは、みちがわからないし、自分じぶんちからでは、こしについているくさりることができない。」
ざるのからは、あつなみだがわきました。
そこへ、つえをついて、しろいひげのはえた、おじいさんがきました。
まごたちがほしがるので、このざるを、わたしってくださらないか。」といいました。
「おお、酒屋さかやのご隠居いんきょさんですか。あなたが、このさるをってくだきれば、わたしは、まちっていくほねおりなしにすみます。」と、かりゅうどは、こたえました。
ざるは、こうして、そのから、酒屋さかやしょうちゃんや、かねさんのあそ相手あいてとなったのです。
かねさんも、しょうちゃんも、どちらも欲張よくばりでした。
「このおさるは、ぼくのだよ。」と、しょうちゃんがいうと、
「いいえ、このおさるさんは、わたしのよ。」と、かねさんがいいました。
「ちがうよ、ぼくのだから。」
二人ふたりは、たがいにいいあらそって、祖父おじいさんのところへききにきました。
祖父おじいさんは、ただわらって、返事へんじにおこまりになりました。
「さあ、だれのだろうな。それは、おさるさんにきいてみるのが、いちばんいい。」と、祖父おじいさんは、おっしゃいました。二人ふたりは、こんどは、ざるのところへまいりました。
「おさるさん、ぼくのだねえ。」と、しょうちゃんが、いいました。
「おさるさん、わたしのだわねえ。」と、かねさんが、いいました。
りこうなざるも、やはり返事へんじこまって、しばらくあたまをかしげてかんがえていましたが、
わたしは、わたしをいちばんかわいがってくださるかたのものになります。」と、こたえたのです。
しょうちゃんにも、かねさんにも、ざるの返事へんじが、わかったでしょうか?
やまでは、ははざるが、かりゅうどにつれられていったから、よるひるざるのことをおもってわすれるがありませんでした。
「いまごろはどうしているだろう。あれほど、とおくへひとりであそびにいってはならぬといったのに、いうことをきかないばかりにこんなことになってしまった。達者たっしゃでいてくれるだろうか。」と、さとほう心配しんぱいしていました。
おもいがけなく、やまのからすが、ははざるのそばへんできて、
「ご心配しんぱいなさいますな、ざるさんは、お達者たっしゃで、かわいがられていますよ。」と、自分じぶんてきたことをはなしてくれました。
ははざるは、それをきくと、どんなによろこんだでありましょう。いくたびもしんせつなからすにかって、おれいをいいました。そのうちにゆきりはじめました。やまも、野原のはらも、しろになりました。
やまのからすから、ざるのいるところをいたははざるは、あるばんやまくだって、ゆき野原のはらあるいて、ざるのところへたずねてまいりました。
それは、さむばんで、ざるは、はこなかのわらにうずまって、ねむっていました。すると、だれかこすものがあります。おどろいて、をさますと、いままでゆめていた、なつかしい母親ははおやが、かおうえからのぞいているのでありました。
「おかあさん!」
「しっ、しずかに、いま、おまえをしばってあるくさりってやるよ。」
ははざるは、ゆびのつまさきからも、くちびるからもして、とうとうかたくさりってしまいました。そして、ふたりは、たがいにってよろこび、ころげるようにして、ゆきなかやまほうへとげていくのでした。
ゆきうえには、二ひきのさるの足跡あしあとと、ところどころにちたあかのあとがのこっていましたが、かみさまは、この親子おやこをかわいそうにおもわれて、かりゅうどのいかけてこぬようにと、夜明よあがたから、ひどい吹雪ふぶきとなさいました。それで、なにもかもしろになって、あとがわからなくなってしまいました。
しょうちゃんと、かねさんは、あさきてみて、ざるがいなくなったので、どんなにびっくりしたでしょう。けれどおやまかえったとったら、「それは、よかった。」といって、きっと、よろこんでくれたにちがいありません。

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