そればかりでありません。私 の祖母 や、母親 は、私 を家 の前 からけっして遠 くへはやらなかったのであります。
「一人 で、遠 くへゆくと、人 さらいがきて連 れていってしまうから、家 の前 から遠 くへいってはいけない。」と、つねにいいきかされていたのであります。
だから、遊 ぶ友 だちのない、ただ自分一人 のときは、ぼんやりとして、日 の当 たる路 の上 に立 っていました。そして、だれかいっしょに遊 ぶ友 だちが出 てこないものかと待 っていました。
ある日 のことです。私 は、やはりこうして一人 さびしく往来 の上 に立 っていました。けれど、犬 一ぴきその姿 を見 せなかったのです。ただ路 の上 には、なにか小 さな石 が日 に照 らされて光 っていました。そして、とんぼが、かなたの圃 の上 を飛 んでいるのが見 えたばかりです。
私 は、退屈 でしようがなかったのです。このとき、遠 くでチャルメラの音 が聞 こえました。私 は、飛 びたつように勇気 づけられました。いくらそのおじいさんが無愛想 でも、ずっと昔 からこの村 にくるので、まったくの顔 なじみであったから、けっして他人 のような気持 ちがしなかった。そのそばへいって、屋台 にさしてあるいろいろな色紙 で造 られた小旗 の風 になびくのを見 たり、チャルメラの音 を聞 こうと思 いました。また、きっとよそからも、友 だちがそこへ集 まってくるにちがいないと思 ったので、私 は、さっそく駆 けだしました。
城跡 のところにいきますと、いつもおじいさんが屋台 を下 ろす場所 に屋台 が置 いてありました。そこからチャルメラの声 が聞 こえてきました。そして、今日 はいつもより、紫色 の紙 の小旗 がたくさんにちらちらと見 えましたので、早 く変 わった光景 をながめたいと走 っていきました。
すると、それは、いつものおじいさんじゃありませんでした。私 は、このはじめて見 るおじいさんを不思議 に思 いました。おじいさんは、こっちを向 いて、にっこり笑 っていました。そして、私 がだんだん不思議 に思 いながら近 づくと手招 ぎをしました。そのおじいさんの顔 は、白 くて目 が光 っていました。私 は、このおじいさんが、いつものおじいさんと異 って、愛嬌 があるのにもかかわらず、なんとなく気味悪 く思 いました。
「さあ、おいでよ、おいでよ。」と、おじいさんはいいました。私 は、自分 一人 だけで、ほかに友 だちがなかったから、あまり屋台 には近寄 らずに、離 れてぼんやりと立 っていますと、
「ここまでくると、おもしろいからくりを見 せてやる。さあさあ早 くおいで、一人 のうちはお銭 をとらない。さあさあ、早 くおいで。」と、おじいさんはいいました。
私 は、からくりを見 たさに、だんだんと近寄 っていきました。
「さあ、その孔 からのぞき。第 一は姉 と弟 とが、母親 をたずねて旅立 つところ。さあさあのぞき。一人 のうちはお銭 を取 らない。」
私 は、屋台 にかかっている箱 の孔 をのぞいてみました。すると、旅姿 をした姉 と、弟 の二人 が目 に映 ったのであります。
「つぎは、途中 で、二人 が悪者 に出 あうところ。」
と、おじいさんがいって糸 を引 きますと、青 い、青 い、海原 が見 えて、怖 ろしい姿 をした悪者 が、松 の木 の蔭 に隠 れて、かなたから歩 いてくる二人 のようすをうかがっていました。
これから、どうなることだろうと思 っているうちに、おじいさんは孔 の中 を真 っ暗 にしてしまいました。
「さあ、これから二人 が、人買 い船 に乗 せられて沖 の島 へやられるところ、もっと先 までいくと見 せますよ。さあ、いっしょにおいでなさい。」と、おじいさんは屋台 をかついで、お城 の中 へ入 っていきました。
私 は、悪者 が、姉 と弟 をどんなめにあわせるだろうと思 うと、かわいそうになって、ついそれが見 たくて、あめ売 りの後 についていきました。あたりはまったく圃 で、人一人 通 らなかったのであります。
不意 に、おじいさんは屋台 を下 ろすと、私 を捕 らえました。私 はびっくりして声 をたてる暇 もなく、おじいさんは私 の口 に手 ぬぐいを当 て、もののいえないようにして、
「いいところへ連 れていってやるから、おとなしくして、この箱 の中 に入 っているのだ。」と、私 を箱 の中 へ入 れてしまいました。それをかついでおじいさんは、とっとと途 を歩 いていきました。
狭 い、身動 きもできないような真 っ暗 の箱 の中 に押 しこめられて、私 はしかたなくじっとしていました。おじいさんは、どこを通 っているのだかわかりませんでした。その後 はチャルメラも吹 かずに、さっさと歩 いていました。
「あんまり、一人 で遠 くへゆくと、人 さらいに連 れられていってしまう。」といった、祖母 や母親 の言葉 が思 い出 されて、私 は、しみじみ悲 しくなって泣 いていました。
「
だから、
ある
すると、それは、いつものおじいさんじゃありませんでした。
「さあ、おいでよ、おいでよ。」と、おじいさんはいいました。
「ここまでくると、おもしろいからくりを
「さあ、その
「つぎは、
と、おじいさんがいって
これから、どうなることだろうと
「さあ、これから
「いいところへ
「あんまり、