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子供の時分の話(3)
日期:2022-11-01 16:54  点击:300
 おじいさんは、どこをどうあるいているのだかわたしにはわかりませんでした。だいぶんながあいだあるいたとおも時分じぶんに、おじいさんは屋台やたいろしました。そして、はこなかからわたしそとしました。このときよくると、おじいさんのかおは、まったく気味きみわるいほどいろしろく、ひかっていました。わたしはいつもむらにやってくる無愛想ぶあいそうな、あめりじいさんをおもして、どれほど、そのひとのほうがいいかしれないとおもいました。
「さあ、なんにもこわいことはない。わたしといっしょにくるのだ。」と、おじいさんは、屋台やたいしたいたままさきってあるきました。わたしは、そこがどこだか、ちっともわかりませんでした。さびしいやまあいだで、両方りょうほうにはまつや、いろいろな雑木ぞうきのしげったやまかさなりっていました。そして、ただ一筋ひとすじほそみちたにあいだについていました。
おじいさんについて、どんなところへれていかれるのかと心配しんぱいしながらあるいてゆくと、はや、せみの松林まつばやしいているこえこえました。れたら、どうなるのだろうとおもうと、もう一足ひとあしあるになれなかったけれど、みちがわからないのですこともできなかったのであります。おかあさんや、おばあさんが、わたしをたずねて、心配しんぱいしていなさるだろうとおもうと、わたしむねがふさがるようながしました。
「さあ、このとうげすと、もうじきだ。」と、おじいさんはいいました。
どんなところへゆくのだろうと、わたしはそればかりおもわれて、心配しんぱいでなりませんでした。
やがてとうげすと、三、四けんふる粗末そまつうちっていました。おじいさんは、その一けんうちわたしれてはいりました。すると、そこにははだぬぎになって、大男おおおとこが四、五にんで、はながるたをしていました。そして、おおきなをむいて、けんめいにかるたをとっていました。
「こんな子供こどもをつれてきた。」と、おじいさんは、みんなにかっていいました。けれども、だれも相手あいてにならずに、かるたのほうにられて夢中むちゅうになっていました。
「どれ、はいってこよう。」と、おじいさんはいっててゆきました。
そこはかし湯治場とうじばであったのです。わたしひとりすわって、このものすごいしつうちまわしていました。まだランプも、電燈でんとうもなく、ただふるぼけた行燈あんどんが、すみのところにいてありました。わたしこころで、これはきっと悪者わるものどもの巣窟そうくつであるとかんがえました。そして、このあいださなければならぬとおもいました。わたしは、よくそのときのことをおぼえています。このとき、按摩あんまふえいていえまえとおりました。
わたし決心けっしんをして、おとこどもにづかれぬように、そっとしつて、下駄げたをはきました。そして、だれかていぬかと四辺あたりまわしますと、勝手かってもとのところで、まだわかおんなが、しろぬぐいをかぶってはたらいていました。わたしは、そのおんなひとがなんとなくやさしいひとえましたので、そのそばへいって、
小母おばさん、どうかわたしうちかえしておくれ。」と、いてたもとにすがりました。すると、やさしそうなそのおんなひとは、じっとわたしかおていましたが、
れるとたいへんだから、はやわたしにおぶさり、あのおじいさんのいないまにげなければならないから。」と、おんなひとはいって、しろぬぐいをとって、そのぬぐいで、わたしかおをわからないようにかくしました。わたしは、をふさがれて、おんなかたにつかまり、そのにおぶさりますと、おんなはすぐにそこからおとのしないようにあるして、きたときのとうげくだりました。
やがておんなは二、三ちょうもくると、いきをせいて、わたしろしてやすみました。けれど、まだわたしからぬぐいをはずしませんでした。
「わたしは、みんなにれるとひどいめにあいますから、ここからかえりますよ。ぼっちゃんは、いまあっちからくる馬方うまかたたのんであげます。」と、おんなはいって、ガラガラとうまくるまかせてきた馬方うまかたに、なにやら小声こごえおんなはいっていました。
「また、達者たっしゃだったらぼっちゃんにあいますよ。けれど、だれかがとってくれるまで、ひとりでぬぐいをとってはいけませんよ。」と、おんなはいいました。わたしは、だまってうなずきました。そしてなんとなく、このやさしいおんなわかれるのがかなしゅうございました。
わたしくるまうえせられて、ながあいだらぬ街道かいどうをガラガラとかれていったのであります。どんなところをとおったか、どんな景色けしきであったか、かくされているので、すこしもわからなかったのです。そして、あるところにきたときに、
「ここだ。」といって、馬方うまかたくるまめ、
「さありた。そして、すこしここにってっているのだ。」といって、わたしろしてくれました。
わたしは、いわれるままにっていました。そのうちに馬方うまかたは、うまいていってしまいました。ガラガラとくるまおとは、しばらくとおくなるまでわたしみみこえていました。
いつまでっても、いつまでっても、だれもきてくれなかったのです。わたしは、ついにかなしくなってしました。おおきなこえをあげてしました。すると、だれかきて、わたしかくしをってくれました。
ると、それはわたしのおとうさんで、わたしむらはずれのおおきな並木なみきのかげにっていました。
は、もうとっくにれていたのであります。



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