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ごみだらけの豆(1)
日期:2022-11-01 17:26  点击:299

ごみだらけの豆

小川未明


地震じしんのありました、すぐあとのことであります。まちには、こめや、まめや、むぎなどがなくなりました。それで、人々ひとびとは、あらそって、すこしでものこっているのをおうとしました。
ある乾物屋かんぶつやでは、こんなときにこそ、小舎こやをそうじして、平常ふだんちているまめや、小豆あずきなどをひろあつめて、ってしまわなければならぬとおもったのです。主人しゅじん女房にょうぼうは、小舎こやなかをはいて、きれいに、ちているまめや、小豆あずきひとところにあつめました。それは、かなりたくさんなりょうがあったのです。おおきなうつわなかれて、みせしておきました。
美代子みよこは、そとから、うちかえると、
「おかあさん、いま、まちの一けん乾物屋かんぶつやにたくさんしろまめがありましたから、はやく、なくならないうちにっておきましょう。」といいました。
かあさんも、おとうさんも、びっくりしたようなかおつきをして、
「ほんとうにまめがあったの。それは、なくならないうちにっておいたほうがいい。はやく、おまえいって、二しょうばかりっておいでなさい。」と、おかあさんはいわれました。
美代子みよこは、ふろしきをって、いそいそとうちからていったのです。そのあとで、おとうさんと、おかあさんとは、はなしをなさいました。
「よくまめがありましたこと。」
「なにをてきたのか、いまごろそんなものがあろうはずがないさ。」
「だって、あのが、てきたのですもの、どこかからきたのでしょう。」
「どこかからきたのなら、そのうちけんばかりではないだろう。まあ、ほんとうにってくるか、もうすこしたてばわかる。」
こんなふうに、おかあさんと、おとうさんとははなしていられました。
そのうちに、美代子みよこは、おもそうに、ふろしきづつみをげてもどってきました。
「あったかい。」と、おかあさんはいわれました。
「なるほど、ってきた。えらいものだ。」と、おとうさんは、まず、その手柄てがらをほめられました。
しかし、美代子みよこがふろしきをいて、おとうさんや、おかあさんのまえに、それをせたとき、おかあさんは、ゆびさきで、まめけながら、
「まあ、たいへんにいろいろなくずがまじっているのだね。」と、まるくなさいました。
そして、れば、るほど、つちがはいっていたり、わらがはいっていたりするので、おかあさんは、あきれたかおつきをして、
「いくら、なんでも、このまめは、べられそうもないね。」といわれました。
とうさんも、だまって、ていられましたが、せっかくってきた、美代子みよこがかわいそうになって、そばから、
「なにもべるものがなくなれば、そんなぜいたくなことがいっていられるものでない。けっこうだ。あちらに、しまっておけばいい。」と、おとうさんはいわれたのです。
美代子みよこは、うっかりして、とんだやくにたたないものをってきたと後悔こうかいしました。そして、こんなものをだまってった、乾物屋かんぶつやしんせつをおもわずにいられませんでした。
「ほんとうに、あのひとたちは、このさいだからといって、だまって、こんなものをったのね。きっとほかの人々ひとびとって、うちかえってからよくて、おどろいていることでしょう……。」と、美代子みよこおもいました。
しかし、べるものがなければ、こんなものだって、どんなにありがたいかしれないと、おとうさんのいわれたことも、ほんとうだとおもいました。
それで、美代子みよこは、大事だいじにして、そのまめはこなかにいれてしまっておきました。しかしこの必要ひつようは、まったくなかったのです。食物しょくもつこまるときは、美代子みよこうちけんばかりのことでなく、まち全体ぜんたい人々ひとびとこまることですから、いつまでも食物しょくもつがこなくて、すまされるわけはありませんでした。
みんなのちからで、たちまちのうちに、いろいろの食物しょくもつが、まち商店しょうてん到着とうちゃくしました。それで、美代子みよこの一も、このくずだらけのまめべなければならぬことがなくてすみました。
美代子みよこおとうととしちゃんは、そのとき三つでしたが、あくるとしには四つのかわいいさかりとなりました。
あるねえさんにつれられて、まちはずれにあった、おみや境内けいだいあそびにゆきました。そこは、広々ひろびろとして、おおきながしげっていました。子供こどもらは、たくさんきてあそんでいます。またそこには、はとが、たくさんいたのであります。はとは、子供こどもらにれていました。人間にんげんが、自分じぶんたちに、けっしてなにもがいくわえるものでないとっていたからです。
ねえさんは、おばあさんからまめってはとにやりました。はとは、おみや屋根やねから、また鳥居とりいうえからりてきて、よろこんでまめべました。としちゃんは、ちいさなをたたいてよろこびました。そして、自分じぶんも、まめを二つ三つ、にぎっては、はとにげてやりますと、はとは、としちゃんのあしもとまできて、それをひろってべていました。
ねえさんととしちゃんとは、しばらくあそんで、あまりおそくなると、おかあさんが心配しんぱいなさるからといってうちかえりました。

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