その日 から、年 ちゃんは、はとぽっぽが、なによりもいちばん大好 きになったのであります。
お母 さんは、これまで箱 の中 にはいっている、豆 を見 ますと、
「ほんとうに、もったいない。」といっていられました。
美代子 も、その豆 を見 ますと、たとえあの際 だからといって、よくも、こんな豆 を売 ったものだと、乾物屋 の人 たちをうらめしく思 わずにはいられませんでした。
「ねえ、姉 ちゃん、はとぽっぽへゆくのだよ。」と、年 ちゃんは、それからは、毎日 、お昼 ごろになるといいだしました。
「さあ、おねんねおし。そして、起 きたら、つれていってあげましょうね。」と、姉 さんも、お母 さんも、どうかして、だまそうと思 いました。
年 ちゃんは、おとなしく眠 ることもありました。また、どうしても、すぐにいってみるといいはったこともありました。また、たとえ眠 ってしまっても、起 きると忘 れずに、
「姉 ちゃん、お宮 へゆくんだよ。」といったのであります。
「ああ、お母 さん。うちに、あの豆 がありましたね。あれを持 っていって、はとぽっぽにやるといいわ。」と、美代子 は思 いついて、いいました。
「ああ、それがいい。」と、お母 さんも、答 えられました。
それから、毎日 のように、食 べられなかった白豆 を袋 の中 にいれては、年 ちゃんは、姉 さんにつれられて、はとぽっぽを見 にいって、その豆 をまいてやりました。
お宮 のはとは、すっかり年 ちゃんになれてしまいました。そして、もう、年 ちゃんのやってくる時分 だと思 うと、お宮 の屋根 の上 からまた鳥居 の頂 から、じっと、いつも年 ちゃんのくる方 をながめていました。そして、年 ちゃんの姿 を見 ると、みんな、年 ちゃんの身 のまわりに集 まってきました。
しまいには、年 ちゃんばかりでありません。美代子 まではとがかわいらしくなってたまらなかったのです。
それから、二人 は、毎日 、お天気 さえよければ、お宮 へまいりました。
「うちに、豆 があるから、いいようなものの、そう毎日 、はとぽっぽへいって、豆 を買 ってやったんでは、たいへんですよ。」
と、お母 さんは、笑 っていわれました。
「ねえ、年 ちゃん、うちの豆 がなくなるまではとぽっぽへゆきましょうね。だけど豆 がなくなったらゆくのをよしましょうね。」
と、美代子 はいいました。
その後 、二人 は、どんなに、豆 がだんだん少 なくなるのを惜 しんだでしょう。また、豆 がなくなってしまったら、はとは、どんなにさびしく思 うでしょう。年 ちゃんと姉 さんが、やってくるだろうと思 って、待 っているのに、とうとう二人 の姿 を見 ることができなかったら、はとは、悲 しむだろうと思 われました。
「まあ、あんなに、たくさんあった豆 が、もう半分 ぐらいになってよ。」と、ある日 、美代子 は、年 ちゃんに向 かっていいました。
そして、いまでは、お母 さんも、美代子 も乾物屋 の人 たちが、不 しんせつであったということを忘 れてしまいました。
あのとき、買 ってきた豆 がいい豆 であったら、こんなに、楽 しく、年 ちゃんを楽 しませなかったろう? また、はとを喜 ばすことができなかったろうと思 いますと、かえって、食 べられなかったのが、しあわせになったのでありました。
姉 と弟 は、今日 も、いつものごとく、お宮 の境内 に近 づきますと、はとが喜 んで、ポッポ、ポッポと鳴 いていました。これを見 て、美代子 が、あのごみの混 じった豆 が、どれほど長 いこと、はとや子供 を喜 ばしたろうと感心 したのであります。
お
「ほんとうに、もったいない。」といっていられました。
「ねえ、
「さあ、おねんねおし。そして、
「
「ああ、お
「ああ、それがいい。」と、お
それから、
お
しまいには、
それから、
「うちに、
と、お
「ねえ、
と、
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「まあ、あんなに、たくさんあった
そして、いまでは、お
あのとき、
――一九二四・六作――