それと、仏壇 の燈火 とは、なんの縁 がないようなものの、やはり燈火 はかすかな輝 きを放 って、その輝 きの一筋 に、凧 のうなっている、青 い大空 の果 てと、相通 ずるところがあることを思 わせたのです。夜 は、暗 い外 に、木枯 らしがすさまじく叫 んでいました。そんなとき、たたく仏壇 の磬 の音 は、この家 からはなれて、いつまでも頼 りなく、荒野 の中 をさまよっていました。
いつしか、孫 の時代 となりました。
彼 は、古 びた、朱塗 りの仏壇 の前 に立 っても、なんのことも感 じなくなりました。
ある日 、仏壇 のひきだしを開 けてみますと、小 さな箱 の中 に利助 のさかずきがはいっていました。彼 は、これを取 り出 してみましたけれど、それがいいさかずきであるか、そうでないかということは、彼 にはわかりませんでした。
けれど、孫 は、先祖 から大事 にしていたさかずきであるということだけは知 っていましたので、これをだれかに、鑑定 してもらいたいと思 いました。
近所 に、一人 のおじいさんがありました。この人 は、なんでも、いまどきのものより、昔 のものがいいときめていました。書物 に書 いてあることも、昔 のほうのが、義 が固 くていいといっていました。暦 も、新暦 よりは、旧暦 のほうが季節 の移 り変 わりによく合 っているといっていました。それで、時計 すら、数字 の刻 んであるものよりは、日時計 のほうが、正確 だといって、船 の形 をした、日時計 を日当 たりに出 して、帆柱 のような、まっすぐな棒 から落 ちる黒 い影 によって時刻 をはかるのでした。
孫 は、そのおじいさんのところへ、さかずきを持 ってまいりました。
「おじいさん。どうか、このさかずきを見 てくださいまし。」と、彼 は頼 みました。
きれい好 きな、おとこやもめのおじいさんは、家 の内 をちりひとつないように清 めていました。おじいさんは、なにをたずねられても、知 らぬといったことはありません。で、村 での物知 りでありました。さっそく、大 きな眼鏡 をかけて、
「どれ、そのさかずきかい。」といって、手 に取 って子細 にながめました。
「たぬきかな? いや、ねずみかな、そうだ、ねずみらしい。絵 は、あまりうまくないな。けれどこの藍 の色 がなかなかいい。いまどきのものに、こうした、藍 の冴 えた色 は見 られないな。まあ、いい品 だろう。」といいました。
「だれが、造 ったのでしょうか。」と、孫 はたずねました。
おじいさんは、また、さかずきを手 に取 りあげて、ながめました。
「そうだ、利助 と書 いてある。聞 いたことのない名 だな。」
結局 、たいした品 ではないが、まあ古 いさかずきだから、いまどきのものとくらべると悪 いことはないというのでした。孫 は、家 へ帰 りました。彼 は、さかずきをまた紙 に包 んで、仏壇 のひきだしにいれておきました。
寒 い、雪 の降 る国 に、孫 はいたくはありませんでした。彼 は、いつからともなくにぎやかな東京 の街 に憧 れていました。そして、いつかは、東京 に出 て、なにか仕事 をして、かたわら、勉強 でもしようという望 みを抱 いていました。
とうとう、彼 は、家 のことを姉 や、弟 とに頼 んで、自分 は東京 へ出 ることになりました。そのとき、彼 は、昔 から家 にあった掛 け物 や、金銀 の小 さな細工物 や、また、長 く仏 さまに酒 を上 げるさかずきになっていた、ひきだしの中 にしまってあった利助 のさかずきなどをひとまとめにして、それを荷物 の中 にいれました。彼 は、東京 へ出 てから、なにかたしになるであろうと、思 ったのでした。
彼 は、東京 へきてから、ある素人家 の二階 に間借 りをしました。そして、昼間 は役所 へつとめて、夜 は、夜学 に通 ったのであります。あるとき、彼 は、書物 を買 うのに、すこし余分 の金 が入用 でありました。そのとき、ふと、国 を出 る時分 に、荷物 の中 へ入 れて持 ってきた金銀 の細工物 とさかずきのまだ、売 らずにあったことを思 いつきました。
いつしか、
ある
けれど、
「おじいさん。どうか、このさかずきを
きれい
「どれ、そのさかずきかい。」といって、
「たぬきかな? いや、ねずみかな、そうだ、ねずみらしい。
「だれが、
おじいさんは、また、さかずきを
「そうだ、
とうとう、