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さまざまな生い立ち(1)
日期:2022-11-03 23:59  点击:249

さまざまな生い立ち

小川未明

 にまし、あたたかになって、いままで、霜柱しもばしらしろく、かたむすんでいた、にわ黒土くろつちやわらかにほぐれて、したから、いろいろのくさしてきました。
「おとうさん、すずらんのが、だんだんびてきましたよ。」と、にわて、あそんでいた少年しょうねんが、おくほうかっていいました。
へやで、おとうさんは、ほんんでいられた。
にいさん、どこに、すずらんがしたか、ぼくせておくれよ。」と、おとうとがそこへんできました。
はるかぜは、青々あおあおれたそらわたっていました。そして木々きぎ小枝こえだは、かぜかれて、なにかたのしそうに小唄こうたをうたっていたのです。つい、このあいだまで、ねずみいろひくただよっていたふゆくもは、どこへかえてしまって、そしてそのしたに、だまってふるえていた木立こだち姿すがたは、おもしてもゆめのようながします。
「すずらんが、したかな。」と、おとうさんは、らす、にわほうながら、書物しょもつからをはなしました。
みんなは、田舎いなかから、こちらへってきた、すずらんがあたらしく、してくことが、どんなにうれしかったかしれません。なぜならこちらでは、すずらんはめずらしいくさであったからです。
「おとうさん、しゃくやくも、あかしましたよ。また今年ことしも、きれいなはなくでしょうね。ああ、☆げんぶきもしましたよ。」
あにおとうとは、しきりににわさきをびまわって、うれしそうにさけんでいました。おとうさんも、いつかにわて、みんなと、はるのめぐってきたのをよろこんでいたのでした。
それらのくさは、しだいにふとく、びていきました。そのあいだに、木々きぎのこずえは、はなのしたくをして、つちうええだと、どちらが、はやはなくか、さながらうえしたとで競争きょうそうしているごとくにおもわれました。
しかし、こちらは、こうして、あたたかになったけれど、すずらんのえていた、きたくに野原のはらは、まだゆきふかかぜさむかったのです。去年きょねんはる子供こどもたちは、おとうさんにつれられて、おばあさんや、おじいさんのんでいなされる田舎いなかへいったのでした。そして、かえ時分じぶんに、おかや、野原のはらいていた、すずらんを幾株いくかぶか、土産みやげってきたのでした。
「おまえたちは、あのすずらんのいていた、野原のはらわすれはしないだろうね。」おとうさんは、あにおとうとかって、われました。
「よくおぼえています。」と、あにのほうはこたえました。
「なんでわすれるものか。もう一いってみたいな。」と、おとうとのほうがいいました。
すると、おとうさんは、わらっておとうとかおながら、
はやかえりたい、かえりたいといったでないか? おとうさんは、こんなさびしいところにまれたんですか? といったのは、だれだったろう?」と、いわれました。
二人ふたり子供こどもは、その時分じぶんのことをおもしてかがやかした。ほんとうに、さびしい北国きたぐに景色けしきが、ありありとかんできたのです。
毎日まいにち毎日まいにちはるだというのに、そらくもりました。そしてゆきもあった。かぜはいつまでもあたたかにならなかった。
「このあたりのは、太陽たいようひかりよりは、かぜゆきなかそだったようなものだ。」と、おとうさんがいわれたことまでおもされたのでした。
ゆきに、ながあいだもれ、またあたまさえられたりしたがりくねっていました。そして、くさははげしいかぜかれるので、おおきくびることができなかったのでした。
「おとうさん、どこからか、いいにおいがしてきますね、なんのはなでしょう。」と、子供こどもたちは、野原のはらあるいているときに、おとうさんにたずねたのでした。
「いいかおりがする。あれは、すずらんのはなにおいだよ。」と、おとうさんはほどちかくに、しろいているはなつけておしえられました。
子供こどもたちは、さっそく、そのはなのところへはしっていきました。なんというしろく、きよらかなはなであろう。そしてなつかしいを、たたえているであろう。
小鳥ことりが、どこかでいていました。ようやく浅緑あさみどりをふいた木立こだちは、よろこばしげにおどっていました。そらあおぐとくもながれています。はるには、ちがいなかったけれど、なんというさびしいはるであろうとおもった。
「おとうさん、はやく、東京とうきょうのおうちかえりましょう……。」と、おとうとはいいました。
「なぜ?」
「さびしいんですもの……。」

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