このとき、お父 さんは、自分 の子供 の時分 のことをいろいろと話 されたのでした。このさびしい春 も、北国 の人々 には、どんなにか一年 のうちで楽 しいときであるかしれない。そして、長 い、暗 い、冬 からぬけ出 て、花 の咲 いた野原 や、青々 とした丘 を見 ることは、どんなにうれしいことであるかしれないといわれたのでした。
子供 たちは、お父 さんが、小 さな時分 、この野原 で駆 けまわって、遊 んだ姿 などをいろいろに想像 しました。そして、いい記念 にと、すずらんの花 を持 って帰 ったのでした。
兄 と弟 は、毎日 、庭 へ出 て、すずらんの咲 くのを楽 しみに待 ったのです。ほかの草 は、ぐんぐんと芽 を伸 ばして大 きくなりました。また、ほかの木立 は、いつのまにか、美 しい花 を開 きました。けれど、すずらんだけは、芽 に力 がなかった。そして、ようよう咲 いた、白 い花 は、なんとなく哀 れげな姿 で、いい香 もうすかったのでした。
「どうしたのだろう。あんなに寒 いところに生 えて、毎日 、寒 い風 に吹 かれつづけているのからみれば、こちらは、こんなに雪 もなく暖 かであるのに、どうして、すずらんは、元気 がないのだろう?」と、弟 は、兄 に向 かって、たずねた。
兄 も、また不思議 でなりませんでした。なぜならどんな植物 も太陽 の光 の中 に生長 したから、そして、日 の光 に恵 まれ、柔 らかな暖 かな土 に育 てられながら、どうして、生長 しないかということは、その理由 がわからなかったからでした。
「僕 にもわからない。」と、兄 はいいました。
二人 は、このことをお父 さんに、たずねたのであります。
「やはり、こちらへきては、根 がつかないとみえるな。」と、お父 さんは、さも感心 したようにいわれたのでした。
「なぜでしょうか、お父 さん、草 や、木 には、太陽 の光 がいちばん大事 なんでしょう。北 の国 は寒 くて、毎日 曇 っています。風 や、雪 がいじめますのに、どうして、あちらに育 って、こちらにくると枯 れてしまうのでしょう?」と、子供 たちは、たずねたのでした。
すると、お父 さんは、
「おまえたちが、不思議 に思 うのは、無理 のないことです。しかし、すずらんには、寒 い風 や、雪 が、薬 になるのです。ひとり、すずらんばかりでない。すべて寒 い国 に育 つ草 や、木 は、太陽 の光 の中 に育 つというよりは、風 や、雪 の中 に育 ったのです。それをかわいそうと思 って、あたたかな国 へ持 ってくれば枯 れてしまう。人間 だって同 じようにいわれる。なに不足 なく育 つばかりが、その人 をりっぱな人間 とするものでない。苦 しみと艱難 に戦 って、人格 が磨 かれるのです。そして北国 の植物 が、風 や、雪 と戦 うことを忘 れたときに枯 れてしまうように、苦 しみと戦 ってきた人 が、その苦 しみを忘 れたときは、やはり、その人 は、終 わってしまうでしょう。また熱帯 の植物 が、反対 に寒 い国 へくれば枯 れてしまうように、ぜいたくに馴 れた人 は、すこしの貧乏 にも打 ち勝 つことができないのと同 じなのです……。」と。
子供 たちは、このとき、やがて咲 くであろう、北 の青 い、寒 い、風 の吹 く空 の下 で、野原 に香 っているすずらんの花 をなつかしく思 ったのでした。
「どうしたのだろう。あんなに
「
「やはり、こちらへきては、
「なぜでしょうか、お
すると、お
「おまえたちが、
☆げんぶき――ゆり科 のぎぼうしの仲間 か?